近年、前立腺がんは急増しており、罹患(りかん)者数は、2020年には日本の男性における部位別がんの中で、肺がんに次いで第2位になると予想されます。しかし前立腺がんの進行は比較的ゆっくりで、効果的な治療法も多いため、早期に発見し治療を行えば完治が期待できる病気です。そんな前立腺がんの早期発見・適切治療の大切さを知ってもらおうと、9月19日、横浜市のはまぎんホールヴィアマーレで開催されたシンポジウム「前立腺がんと向き合う 〜早期発見、適切治療とは〜」では、前立腺がんの知識と治療の紹介のほか、ゲストによる講演、パネルディスカッションも展開されました。その概要を紹介します。
前立腺がんの患者数は約10年前から急増しています。日本の男性における部位別がんの中で、2020年には胃がんを抜き、肺がんに次いで2番目に多いがんになると考えられています。前立腺がんによる死亡者や死亡率も増え続けています。日本では約9千人、アメリカでは2万7千人が1年間に亡くなっており、人口比で比較すると、わが国はアメリカと同様な緊急度にあります。その原因として考えられるのは高齢化、食生活の欧米化です。
前立腺は、膀胱の出口に尿道を取り巻くように存在する男性特有の臓器です。前立腺肥大症は、移行域と呼ばれる内腺が大きくなって尿道を圧迫するものですが、前立腺がんのほとんどは辺縁域と呼ばれる外腺から細胞が悪性化して大きくなり塊ができる病気です。前立腺肥大症は良性の腫瘍である一方、前立腺がんは悪性の腫瘍です。
前立腺がんのやっかいなところは、前立腺肥大症と症状がよく似ていること。症状が現れないこともあり、早期の場合は症状がないことの方が多いほどです。
早期がんは前立腺の中にとどまりますが、進行すると外側にも広がります。さらに進行すると周辺の臓器やリンパ節、そして特に骨に転移する特徴を持っています。
前立腺がんの診断には、一般にPSA(前立腺特異抗原)検査、直腸診、超音波検査が行われています(図参照)。中でも、その有用性が注目され、かつ早期発見にもつながると期待されているものがPSA検査です。PSAは前立腺から出されるたんぱく質で、前立腺がんの腫瘍マーカーとして使用されています。4(ng/mL)以下なら正常、4.1から10はグレーゾーン、10.1以上ではがんが疑われ、値が高くなるほどがんの可能性も高まります。
前立腺がんは早期発見・適切治療がカギです。オーストリア・チロル地方で実施された調査では、PSA検査の普及により早期の前立腺がん発見が増え、結果死亡率が低下したというデータもあります。
日本泌尿器科学会でも、50歳以上の男性の年1回のPSA検査を推奨しています。
前立腺がんの治療の目的は、第一に前立腺がん死をなくすこと。そして罹患後のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)を、肉体的にも精神的にもより高く保つことです。
前立腺がんの治療(図参照)には、まず無治療経過観察があります。これは定期的なPSA検査を行うことで、値の経過を見ていく方法です。
前立腺内にがんがとどまっている場合には、局所的治療として手術で前立腺をすべて摘除する方法があります。前立腺がんの手術で医師が考えることは、がんを残さずにすべて取り切ること。また術後のQOLを保つため、尿失禁の防止や、勃起機能を温存することも大切です。
さらにがん細胞を死滅させる放射線療法として、体の外から放射線を照射する外照射法や、前立腺内に放射線の小線源を埋め込む組織内照射法があります。手術に比べて身体的負担が少なく、75歳以上の高齢者でも治療が可能です。
全身的治療としては、男性ホルモンの働きを抑える注射薬や内服薬を投与する内分泌療法(ホルモン療法)が代表的です。男性ホルモンの大部分を作っている精巣を取る方法もあります。それでも効かなくなった場合には、抗がん剤による化学療法もあります。
前立腺内だけにがんが見つかった場合は、進行度や悪性度、患者年齢、全身の状態や糖尿病などの合併症の有無、そして患者の希望により治療法を決めます。年齢が高くなるに従い手術を控えることも多く、その場合は内分泌療法が主体になります。
進行期の前立腺がんには、年齢にかかわらず内分泌療法が第一の選択になりますが、前立腺がんは転移した状況で見つかっても内分泌療法がよく効きます。転移していても決して悲観することはなく、しっかり治療すればより高いQOLを保てます。しばしば見られる骨転移には、痛みなどの症状緩和の目的や骨折予防に放射線外照射を行うこともあります。治療法は症状や悪性度、年齢などを考慮して選択し、組み合わせを決めることが肝要です。何が自分に適しているか、まずは医師とよく相談してください。
part2 【ゲストによる講演】・【パネルディスカッション Q&A】 |
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