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長崎市の事例にみる 前立腺癌検診のあり方 金武 洋 先生(長崎大学医学部泌尿器科 教授)
 草場 泰之 先生(日本赤十字社長崎原爆病院泌尿器科 部長)小森 清和 先生(長崎市医師会理事小森内科クリニック院長)
酒井 英樹 先生(長崎大学医学部泌尿器科 准教授)

癌のなかでこの10年で罹患率の増加が最も著しいのは前立腺癌である。前立腺癌は、初期は無症状の場合が多く、症状が現れた時には進行している可能性が高い。1980年代は、5割弱が発見時すでに転移癌であった。
しかし現在では、PSA検査によるスクリーニングが確立し、早期発見・適切治療が可能となった。欧米ではPSA検診が普及しており、その有用性が報告されている。今回は、自治体におけるPSA検診の確立と普及をめざしている長崎市の取り組みについて、座談会形式でお話を伺った。
<司会> 長崎大学医学部 泌尿器科 教授 金武 洋 先生<出席者> 日本赤十字社 長崎原爆病院 泌尿器科 部長 草場 泰之 先生<出席者> 長崎市医師会理事 小森内科クリニック 院長 小森 清和 先生<出席者> 長崎大学医学部 泌尿器科 准教授 酒井 英樹 先生
※ 出席者(50音順)

実証されたPSA検診の有用性

金武

前立腺癌は従来、欧米諸国に多く日本人には少ないといわれてきました。しかし、近年は高齢化やライフスタイルの欧米化を背景にわが国でも罹患率が急激に上昇しています。2020年には罹患率が肺癌に次ぎ2位になると予測されており、その対策は焦眉の急の課題です。 そこで注目されているのが、PSA検診です。オーストリア・チロル地方の研究では、PSA検診導入後の死亡率が導入前と比較すると54%も低下したことが報告されています。また、現在進行中の大規模無作為化比較試験ERSPC(European Randomized Study of Screening for Prostate Cancer)の中間解析では、PSA検診の導入により10年間で進行癌罹患率が約49%も減少していました(表1)。これらの結果はPSA検診の有用性を証明するものであり、極めて重要な結果です。

表1 ERSPC試験の中間解析結果

日本でも、前立腺癌検診への関心は高まってきており、市区町村の住民健診における前立腺癌検診の実施率が増加してきています。このような中、日本泌尿器科学会から「前立腺がん検診ガイドライン2008年版」が刊行されました。はじめに、このガイドラインについて簡単にご紹介いただきたいと思います。

酒井

前立腺癌はよくご存知のように非常に経過の長い癌です。そのため、癌死だけで検診の意義を評価することには無理があります。日本泌尿器科学会では、死亡率減少のみならず進行癌の減少と患者さんのQOLを良好に維持することが重要であると考えました。 ガイドラインでは、検診の対象年齢は50歳以上、家族歴がある場合は45歳以上とし、PSA検査の基準値は4.0ng/mlあるいは年齢階層別PSA基準値を用い基準値を超えたら二次検診の受診を推奨しています()。

図 前立腺癌検診のアルゴリズム例

金武

医療従事者のみならず一般の方々も、このガイドラインを通して前立腺癌検診の意義と診療の実態を正しく理解していただき検診が普及することが期待されます。

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