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長崎市の事例にみる 前立腺癌検診のあり方 金武 洋 先生(長崎大学医学部泌尿器科 教授)
 草場 泰之 先生(日本赤十字社長崎原爆病院泌尿器科 部長)小森 清和 先生(長崎市医師会理事小森内科クリニック院長)
酒井 英樹 先生(長崎大学医学部泌尿器科 准教授)

長崎市では行政・大学・医師会が一体となって前立腺癌検診を確立

金武

それでは、長崎市の前立腺癌検診について、これまでの経緯および概要をお聞かせください。

小森

検診は、長崎市の保健事業の一環として2002年度から始まりました。開始に先立ち長崎市、長崎大学、長崎市医師会の3者で協議会を設置して検討を重ね、検診方法は募集型のPSA単独検診とし、検査場所は長崎市医師会医療センターの1ヵ所で実施することになりました(表2)。

表2 検診方法

PSAの測定も医師会医療センター検査部の1ヵ所で行い、精度管理に努めています。現在は、ある程度検診の有効性が確認されたので、公募だけではなく住民健診や企業健診などでも前立腺癌検診を勧めています。

酒井

二次検診については、原則として経直腸的超音波ガイド下の前立腺生検を行うこととし、施行可能な9施設が指定されています。これは精度管理上も非常に重要な点です。二次検診の結果は、長崎大学泌尿器科に送付され集計された後、長崎市へ報告されるというシステムになっています。

草葉

具体的には二次検診では、一般問診、前立腺触診を含む診察を行って超音波検査ないし超音波断層法を施行した後、前立腺癌は無症状が多いこと、前立腺触診や超音波エコーでは所見がない場合が多いことなどをお話しして生検の必要性、検査方法および合併症について詳しく説明し、生検の同意を文書で得るようにしています。生検は通常、右葉5ヵ所、左葉5ヵ所、計10ヵ所とし、癌が確実に疑われる場合は4〜5ヵ所、再検査の場合は12〜14ヵ所になることもあります。

金武

長崎市では、PSAの測定の検査場所を1ヵ所で行っているのが大きな特徴ですね。

小森

はい。医師会医療センター検査部で、しかも同じ検査員が専任で行っています。また、フリーPSAも測定していることも特徴の一つです。

金武

1ヵ所で、しかもフリーPSAまで測定しているのは、日本でもあまり例がないと思います。今後、学問的にも非常に重要な知見が得られると思われます。

インフォームドコンセントと個人情報保護も重視

金武

生検は文書で同意を得るというお話がありましたが、最近は個人情報保護の問題もありインフォームドコンセントが非常に重要です。検診を始めるにあたって、このあたりはどのようにされたのでしょうか。

酒井

ちょうど協議会を立ち上げ検討を始めた頃に個人情報保護が問題になり始めたので、検診でも十分説明をして同意を得ることで意見が一致しました。説明書には、検診の目的、検診の方法、採血時の有害事象、検査の信頼性、検診による利益と不利益、検診効果の不確実さ、PSAが異常値であった場合の精密検査の必要性と癌と診断された場合の治療法、個人情報の保護に関する内容が盛り込まれています。特に、二次検診が必要になった場合、検診結果が二次検診実施機関より長崎大学および長崎市へ通知されることについても文書で同意を確認するようにしました。
約500人にアンケート調査を行った結果、90%以上の方が個人情報保護に関する説明は必要であると回答し、特に60歳未満の若い方ほどその意識が高いことがわかりました。二次検診の結果の取扱いについては、長崎大学に連絡することに反対が6%、長崎市に連絡することに反対が8%と少なく、ほとんどの方が支持していることが確認されました。今では当たり前のことですが、長崎市では当初からこの問題に取り組んでおり、大変意義があったと思います。

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