「がん・統計白書2012」によると、2010年の前立腺がんによる死亡者数は1万1,600人。2025年には1万5千人を超えると予想されています。多くの自治体が、前立腺がんの早期発見に有効なPSA検査を取り入れているものの、日本人男性の受診率は10%前後と低い数字にとどまるのが現状です。 ブルークローバー・キャンペーンは、9月17日〜24日を、日本における「前立腺がん啓発週間」と設定。複数の医療機関と協力し、無料PSA検査の提供のほか、前立腺がんの基本的知識を広く発信しました。
講座会場「参加者の顔が見える距離を」との
思いからコンパクトに
昨年に続いての開催となった昭和大学。「前立腺がんで苦しむ人、亡くなる人を1人でも減らしたい」。中心となった深貝隆志先生(昭和大学医学部泌尿器科准教授)の思いは、1年経った今も同じです。昨年の同イベントで無料PSA検査を受けた人は160人。そのうち66.9%にあたる107人にとっては初めてのPSA検査受診であり、結果4人に前立腺がんが見つかったというデータも。このように早期発見・適切治療に一定以上の成果をあげたイベントですが、今年の開催に向けて、昨年とは違うエリアに折込チラシを配布するなど、PSA検査を受けたことのない「新規」の参加者が多く集まる工夫をしたといいます。「とにかくまずは1度PSA値を測っていただき、疑いのある人を早くふるい分けることが重要。今年も260人の受診者のうち63.1%にあたる164人が新規受診者で、昨年に続き、目覚ましい成果があげられました」
イベント実施にあたった昭和大学病院
スタッフのみなさん
気になる症状を別途相談できる
「Q&Aコーナー」を設置
また前回実施時のアンケートで、参加者は「どうしたら前立腺がんにならないか」という“予防”の話題を求めている傾向も浮き彫りに。その声に応え「前立腺肥大症のはなし(小川良雄先生・同大学医学部泌尿器科教授)」や「前立腺がんの最新治療(森田將先生・同大学医学部泌尿器科講師)」の講演に加え、深貝先生の講演では、前立腺がんのリスクを上げる(下げる)可能性のある食物の紹介にも時間が割かれ、参加者の関心を引き付けます。
東京だけでなく、関東一円から参加者が集まり「遠いところから来たかいがありました」と深貝先生に声をかける参加者も。
「昨年、当施設で実験的に始めたこのイベントに賛同してくれる先生や病院が増え、無料PSA検査の輪は着実に広がっている。これは何よりも心強いこと」。大講義室よりも、参加者の顔が見える距離が保てる教室を会場に選んだという深貝先生。その思いは参加者それぞれに伝わったはずです。
「今後は、健康意識の高い人以外にも呼びかける工夫を」と話す赤倉先生
午前10時の受付には、都内はもちろん近隣県からも参加者が訪れ、列をなします。無料PSA検査は、東京厚生年金病院をはじめ実施病院の多くで当日申込が可能で、予約なしの受診者もちらほら。採血のみで完結するPSA検査の簡便さが際立ちます。練馬区から参加の男性(53歳)は「父親を泌尿器科受診に連れて行くと、待合室で『50歳を過ぎたらPSA検査』のメッセージを目にしました。会社の健診項目にPSA検査は入っておらず、ちょうどよい機会と思って」と参加理由を教えてくれます。
「PSAスクリーニングと前立腺がんの診断」で講演した千葉量人先生(東京厚生年金病院泌尿器科医長)は、「高齢になるにつれてリスクの増える前立腺がん。早めにPSA検査で発見すれば、老後の生活の質も上がります。
PSA検査の重要性が強調された講演
無料PSA検査は67人が受診
健康に天寿をまっとうする手段として、PSA検査を受けてください」と強調。赤倉功一郎先生(同科部長)による講演「前立腺がんの治療法」では、前立腺がんの診断から治療方法まで話題を展開。「がんと診断されても、早期であれば複数の中から治療法を選択できます」とメッセージを。横浜市から参加の女性は「主人に前立腺がんが見つかり、少しでも知識を得ようと」と熱心に講演に聞き入っていました。
「住民検診以外の受診機会をいかに設けるかが、PSA検査普及のポイント。今回の啓発週間のように参加施設がさらに増えて、同時多発的に無料PSA検査が各所で行われれば、啓発の相乗効果も高まります。今後もこのような形で検査普及に貢献していきたいです」(赤倉先生)。
「無料PSA検査はもちろん、正しい前立腺がんの知識を広く一般に向けて提供できる、このようなイベントの必要性を感じていた」と木村剛先生(日本医科大学泌尿器科学教室准教授)。日本医科大学で行われたPSAスクリーニングキャンペーンには、市民公開講座に約60人、無料PSA検査には112人が参加しました。
近藤幸尋先生(同大学主任教授)を座長に行われた市民公開講座は、前立腺がんの「診断(鈴木康友先生・同大学講師)」から始まり、三つの治療方法「手術(Mア務先生・同大学准教授)」「放射線(木村先生)」「ホルモン(木全亮二先生・同大学助教)」の最前線を解説。「知り合いなどから、間違った前立腺がんの知識を得ている人も目につく。参加されたみなさんには、正しい知識を持ち帰ってほしかったのです」という木村先生の思いがこもったかのような各講演に、参加者はじっくりと聞き入ります。
その後は、五つの個室に各先生が分かれ、参加者の疑問・相談に答える時間を設定するきめ細かな対応も。「前立腺がんについて、自分にかかわりのある人は十分な知識を備えていますが、そうでない人は『PSA検査』の存在すら知らない。『知識の二極化』が気になります。正しい知識を一人ひとりが持てば、いざ前立腺がんと診断されたとき、備えができるし、過剰に治療されることも少なくなるはず。今日の経験を足掛かりに、今後は健康意識の低い人、前立腺がんに対する知識が少ない人に対しても、正しい知識を広げていく試みをしていきたいですね」と木村先生は締めくくってくれました。
イベント実施にあたった日本医科大学スタッフのみなさん
実施された無料PSA検査
企画部・武川志央さん
9月21日・28日に開催されたイベントは「家族が前立腺がんにならないための、女性の役割について」と独自の切り口で構成。
黒澤功先生(医療法人社団美心会理事長・NPO法人前立腺がん検診推進ネットワーク理事長)は「特に女性(妻・娘)の助言なしに、前立腺がん検診の現場に男性が出向くことは難しい。ためらう男性の背中を押してあげるために、女性にも前立腺がんの知識を持ってほしいのです」とその意図を語ります。
企画部の武川志央さんは「男性特有の前立腺がんといえども、それを支える女性の視点は大切。先ごろ当院が中心となり設立した『NPO法人前立腺がん検診推進ネットワーク』に3人の女性が理事として加わったのも、そんな理由からです」と話します。
平日昼にもかかわらず約40人が参加。
予防医療の意識を地域に浸透させた黒沢
病院ならでは
28日の公開講座は山中英壽先生(公益財団法人前立腺研究財団理事長・黒沢病院院長)の講演と「女性の役割」をテーマにパネルディスカッションを実施。前述の3人の女性理事(黒澤由美子さん、松本房江さん、大河原カツヱさん)がパネラーとして参加しました。黒澤さんは「PSA検査は『パパ(P)生活(S)安心(A)』と覚えて。いつまでもご主人に関心を向けてください」と女性ならではの視点からメッセージを送ります。
毎回趣向を凝らした掲示物も見どころ
両日に行われた無料PSA検査は20人が受診。そのうちの1人の男性(65歳)は「いろんながん検診を受けてきたがPSA検査は初めて。妻から勧められて」と話します。ちなみにこの男性は市民公開講座を夫妻で聴講。「(妻が知識を得て)これから口うるさくなるだろうね」と苦笑いしながらも、満足そうな足取りでクリニックを後にしました。
伊勢崎市民病院(小林幹男院長)で開催したイベント。竹澤豊先生(伊勢崎市民病院泌尿器科主任診療部長)による司会で行われた市民公開講座は「前立腺がんの診断と治療」がテーマ。牧野武朗先生(同院泌尿器科医長)の講演は、前立腺がんと診断されるまで、またその後の治療全般に関して詳細な説明がされました。特にPSA検査については、様々な角度からのデータを示したうえで、その重要性を強調。集まった約50人の参加者から活発な質問が飛び交い、充実のもと終了しました。
期間中、資料展示ブースを設置して、パンフレットやキャンペーンバッジの配布を行い、来訪された方々の質問に対し、泌尿器科専門医が説明を行いました。
山本巧先生(古作クリニック玉村分院院長:中央)を
はじめとするスタッフのみなさん
同院泌尿器科医長の門間哲雄先生が中心となって実施。「和光市民まつり」で幅広い世代が集まる会場内で、健康相談ブースを設置。50歳以上男性の希望者に、無料PSA検査を実施しました。
米国の男性の健康を脅かす前立腺がんに関する知識を、男性だけでなく女性も含めた国民に普及させることを目的に設立されたNPO法人。毎年9月第3週を「前立腺がん啓発週間(Prostate Cancer Awareness Week:PCAW)」と定め、全米の協力病院やクリニックで無料PSA検査を実施。米国民の間でPSA検査は身近なものとなっている。