- 警告・禁忌を含む使用上の注意等は、添付文書をご参照ください。
- 紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
- 本コンテンツで使用している症例提供元:福井県立病院 循環器内科 藤野 晋 先生
読影道場3
*紹介した症例は、2017年7月に京都で開催されたセミナー「読影道場」で使用されたものです。
- 70代 男性。主訴は胸部不快感と労作時呼吸困難。
- 既往歴は、糖尿病、脂質異常症、下肢閉塞性動脈硬化症。
- 脳幹梗塞を発症し脳外科に入院。その後症状は軽快し、翌月リハビリテーション科に転科となった。その翌日リハビリ中に胸部不快感、労作時呼吸困難を認め心不全と診断された。
- 胸部X線では心拡大、肺うっ血を認め、心電図ではV5・V6誘導でST低下を認めた。
治療戦略を考えるにあたり、虚血範囲の確認と心筋バイアビリティ評価の目的で、99mTc-tetrofosminによるアデノシン負荷心筋血流SPECTを実施した。
右室描出があり重症虚血が疑われた。前壁中隔はReverse fill-in(逆再分布)を呈しており( ,)、Washout亢進の可能性が示唆されることから、心筋バイアビリティは保たれており、心機能の改善が期待できると考えられた1)。 一方、下壁から心尖部にかけては負荷・安静ともに広範な欠損を認め、%Uptakeは40%台に低下していることから心筋バイアビリティは乏しいと考えられた。
なお、心筋バイアビリティのカットオフは50~60%以上としている2,3)。
びまん性に壁運動異常を認め、LVEFは15%に低下していた。
その後、治療方針決定のため冠動脈造影(CAG)を実施した。
LAD近位部に完全閉塞、LCxは中位部に高度狭窄、LCxからRCAへの側副血行路を認めた。
RCAも近位部に完全閉塞を認め、重症三枝病変を確認できた。
治療戦略 | 重症三枝病変、低左心機能、Syntax score 33.5点と高値であり、本来はCABGが適応である。しかし、本症例は脳幹梗塞後で左内頚動脈閉塞があり手術リスクは高いことから、PCIを施行することとした。 |
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前壁中隔は壁運動の低下を認めるが、Reverse fill-inを呈していることからWashoutの亢進が示唆され1)、心筋バイアビリティは保たれていると判断できる。よって、血行再建術による壁運動改善が見込めるためLADを最初に治療する。 |
下壁の心筋バイアビリティは乏しい(右図)。ただし、治療により血流が改善し、側副血行路の源となれば、間接的に他領域の壁運動改善への寄与を期待できると考えられる。 RCAを最初に治療する考え方もあるが、心筋血流SPECTの情報を加味し、RCAを2番目に治療する。 | |
側壁は集積が最も保たれており、最後に治療する。 LCxを最初に治療し、仮に血流障害が起こると血行動態が破綻する可能性がある。 |
本症例はその後、歩行距離も延長し、心不全や虚血発作を起こすことなく良好である。 LVDd(左室拡張末期径)は68㎜から55㎜へ、LVEFは15%から35%に改善した。
低左心機能の重症虚血性心疾患症例では、治療戦略や予後を考える上で、心筋バイアビリティ評価が重要である4)。
心筋バイアビリティ評価は血管情報だけでは得られない。心筋血流SPECTによる心筋バイアビリティ、心筋虚血範囲の評価は重要な情報を与えてくれる。