基礎編Q&A
放射性医薬品とは、放射性医薬品製造規則にある放射性同位元素を含む医薬品で、日本薬局方または放射性医薬品基準によって規定されているものをいいます。ラジオアイソトープ(放射性同位元素)を含む医薬品で、それらのラジオアイソトープが放出する放射線を利用して、病気の診断や治療を行います。
患者さんに放射性医薬品を投与し、体外から放射性医薬品の分布を検出して画像化する検査方法をシンチグラフィ(シンチ)といいます。シンチグラフィで得られる画像をシンチグラムといいます。 シンチグラフィは検査目的により、臓器の位置・形態・大きさ、病巣の有無・局在・性状などの情報が得られる静態シンチグラフィ、経時的な撮像で血流や臓器の機能などの情報が得られる動態シンチグラフィ、全身の病巣を検索する全身シンチグラフィ、断層撮影により3次元的情報が得られるSPECTなどに大別されます。
アイソトープ(同位体)の中で、構造が不安定なため、時間とともにガンマ線などの放射線を出しながら崩壊していく核種のことをラジオアイソトープ(放射性同位元素)といいます。放射性核種、RI(アールアイ)とも呼ばれます。
ガンマ線は、原子核内から発生する波長の短い電磁波です。ガンマ線の生物学的効果はエックス線と類似しているといわれています。核医学検査では、体内の情報を体外にもたらしてくれるよう、透過力の強いガンマ線を放出する核種が多く利用されています。
核医学検査に用いられる放射性同位元素には、1方向の放射線を放出する放射性同位元素(single photon emitter)と、2方向の放射線を同時に正反対の方向に放出する放射性同位元素(positron emitter)があります。 このうち、体内に投与されたsingle photon emitterから放出される放射線(ガンマ線)の分布と時間経過を画像化するために用いられる装置をガンマカメラ(又はシンチレーションカメラ)といいます。
<ガンマカメラの構造>
体内に投与された放射性医薬品から放出されたガンマ線はコリメータと呼ばれる多数の穴が開いた鉛(又はタングステン)板を通り、シンチレータにあたり、発光(シンチレーション光)します。シンチレータの後には数十本からなる光電子増倍管が並んでおり、シンチレーション光(光信号)はここで増強されます。増強された光信号は、位置等計算され、画像化(ディスプレイ表示又はフィルム印刷)されます。
各構成部品の特徴等は以下のとおりです。
●コリメータ
鉛又はタングステンから構成される板に特定のphotonのみが通過できるように多数の穴が開いています。穴の開き方、配置等により、複数のタイプが存在し、一般的なものは穴が平行に配置されているパラレルホールコリメータと呼ばれるものです(上図)。
●シンチレータ
放射性核種から放出されたガンマ線を光信号に変換するために用いられるものです。シンチレータに入射したphotonはシンチレータと相互作用し、エネルギーの一部を閃光(シンチレーション光)として放出します。材質は通常、NaIに微量のTlを混ぜたNaI(Tl)を用います。ただし、NaIは急激な温度変化(1時間に3℃以上)や湿度に弱いため、取扱いに注意が必要です。
●光電子増倍管
真空管の一種で、シンチレータからの光信号を増幅します。増幅過程では感度の均一性が重要であり補正回路を付けたり、四角形や六角形の光電子増倍管を使用して管間の隙間を減らすように工夫されています。
■線源とコリメータとの距離が離れるほど、空間分解能ならびに感度も劣化します。
下図のようにコリメータ面から遠い線源から放出されるガンマ線はコリメータの隣の穴も通過し、シンチレータ面の広い範囲に入射することになります。これを避けるため検査時にはガンマカメラをできるだけ患者さんに接近させる必要があります。
■コリメータは、その厚さ及び隔壁厚により空間分解能や感度が変化するため、使用する放射性核種の種類や検査目的に応じて適切に選択する必要があります。
「Single Photon Emission Computed Tomography」の各頭文字を取って「SPECT」(スペクト)といいます。日本語では「単一光子放射断層撮影」となりますが、一般的に「スペクト」と呼ばれています。
画像診断法の一種で、体内に投与した放射性医薬品から放出されるガンマ線をガンマカメラ(「ガンマカメラとは?」を参照)で検出し、その分布を断層画像にしたものです。脳血管障害、心臓病、癌の早期発見に有効とされています。
SPECTで用いられる放射性核種には以下のような特徴があります。
- (1)出てくる放射線のほとんどがガンマ線または示性エックス線(光子=電磁波)で、ベータ線(粒子)は出してもわずかである。
- (2)光子のエネルギーが適当な値である。
- (3)半減期が適当な長さである。
- (4)容易に製造が出来る。
- (5)いろいろな化合物への標識が容易である。
(例)テクネチウム-99m、ヨウ素-123等
「Positron Emission Tomography」の各頭文字を取って「PET」(ペット)といいます。PET検査は感度、定量性の点でSPECT検査より優れていることから近年、使用頻度が高まっています。ただし、PET検査に用いられる放射性核種(フッ素-18、酸素-15等)がSPECT検査に用いられる放射性核種と性質が異なるため、一般的なガンマカメラは使用できず、PET専用の撮像装置が必要です。
一部の核医学検査では、画像上で、測定したい臓器や部位を取り囲むように線を引き、その領域のカウントを計測したり、カウントの時間変化を時間放射能曲線として表示したりします。この領域を関心領域(ROI、「ロイ」)といいます。
1/有効半減期=1/物理的半減期+1/生物的半減期
放射能の単位(SI単位)。原子核が放射線を出して他の種類の原子核に変わる現象を壊変といい、1Bq(ベクレル)は毎秒1個の壊変を表します。Bqの他には古くから使われてきたCi(キュリー)という単位があり、1Ci=37×109Bqです。
99mTcは99Moの壊変により生成され、半減期が約6時間と短く、ガンマ線のみを放出するため、被曝が少ない核種です。また、99mTc はシンチグラフィの撮像に適したエネルギーを有するガンマ線を放出するという利点があります。99mTc は99Mo-99mTcジェネレータから99mTcO4-の化学形で溶出されます。弊社では99mTcO4-で標識された製剤に99mTc-スズコロイド、99mTc-DMSA、99mTc-MAA、99mTc-PMT、99mTc-HSAD、99mTc-GSA、99mTc-Tetrofosminなどがあります。またキット製剤の標識には99mTcO4-が用いられます。
(標識核種をわかりやすくするために製剤名を略名で表記しました)
放射性医薬品を用いる核医学診断は放出されるガンマ線により画像を得ます。部位を画像化するには、放射能が必要です。必要とする放射能量(Bq)は各検査ごとに異なるので、投与量は放射能量(Bq)で設定・表記されています。