9月19日、昭和大学病院泌尿器科(東京都品川区)が主催する「PSAスクリーニングキャンペーン」が行われました。一般市民を対象に、前立腺がんの早期発見に有効なPSA検査を無料で実施。専門医による市民公開講座では、前立腺の病気に関する基本情報が広く発信されました。
深貝隆志先生
「日本では前立腺がんへの関心がまだ高くなく、進行した状態で前立腺がんが見つかり不幸にも亡くなる患者さんを、いまだ多く目にします。一人の泌尿器科医として、この現状を何とかしたかった」。大学病院主導では前例のない、一般市民向けの前立腺がん啓発イベント開催の経緯をこう振り返るのは、同イベントを企画・実施した深貝隆志先生(昭和大学医学部泌尿器科准教授)。PSA検査が草の根まで根付くアメリカでは、今回のように有志が主催する無料PSA検査が盛んに行われており、深貝先生はこの様子を昨年コロラドで視察。実現の手ごたえを得て帰国し、企画準備に取り掛かったとのこと。過去には品川区の住民検診にPSA検査を導入するため積極的に働きかけ、2006年に実現するなど、検査普及には人一倍情熱を傾ける深貝先生。
「品川区の場合、割合からするとPSA検査受診者は全対象者の10%あまり。しかもその10%も、欠かさず受診する『リピーター』でほぼ毎年占められている。今回のイベントは、これまでPSA検査に目を向けてもらえなかった層に、まず気軽に受けてもらうことをめざしました」
告知にあたっては、大学病院であると同時に“地域”の中核病院であるという立ち位置を認識。インターネットを使った広域への告知のほか、同病院おひざ元の「旗の台東口通商店街」の飲食店・コンビニエンスストアに協力を仰いでの告知ポスター掲示や、近隣エリアへの折り込み広告を実施。地域住民へのアピールにも注力しました。
開催当日、会場の昭和大学50年記念館に来場した参加者は120人ほど。「想像以上の反響(深貝先生)」と振り返ったように、3回にわたって行われた市民公開講座の会場は、各回とも大勢の参加者で埋め尽くされました。市民公開講座のテーマは主に「前立腺がんにおける早期発見の大切さを理解してもらうこと」
地元はもちろん、関東広域からたくさんの参加者が
PSA検査のための採血。気になる症状を相談できる「Q&Aコーナー」も設置された
ブルークローバー・キャンペーンもブース展開
「もし罹患しても、安心して治療を受けられるように正確な情報を得てもらうこと」。特筆すべきは「前立腺肥大症」「排尿に関する悩み」など、前立腺がん周辺のテーマにも焦点を当てたこと。参加者からの事前アンケートで、これらについても知りたいという声の多さに応えたものです。
小川良雄先生
小川良雄先生(昭和大学医学部泌尿器科教授)による講演は、前立腺の働きといった基本知識に始まり、前立腺肥大症と前立腺がんの違い、そして排尿時トラブルの対処法など、参加者が身近に感じられる話題が中心。「PSA検査や前立腺がんなどは聞き慣れない方もいる。まずは前立腺についての身近な知識を幅広く得ていただき、前立腺がん早期発見の足がかりにしてもらいたかった」と深貝先生。一方、深貝先生の講演テーマは、前立腺がんの話題が中心に。中でも、PSA検査の簡易さ、そして早期発見への有用性については特に強調しました。
イベント実施にあたったスタッフのみなさん
希望者には、PSA検査のための採血を無料で実施。横浜市から参加の男性(77歳)はPSA検査を初体験。「近しい友人が前立腺がんに罹患したのが、今回参加のきっかけ。血液を採取するだけの簡単なPSA検査を、周囲にも勧めたいです」と感想を。夫婦で参加した男性(60歳)は「いざ罹患したときの心構えができた。定期的にPSA検査を受け、早期発見につなげたい」と振り返ってくれました。
「アメリカでは、官の力に頼らず、民間レベルで無料検診を実施する動きが盛ん。今日のイベントをきっかけに『各種検診は自治体が行うのが当たり前』という日本の先入観を取り払い、この流れを全国に広めていきたい」と今回のイベントを総括する深貝先生。講演終了後も、囲まれた参加者からの質問に、一つひとつ親身に対応していました。
昭和大学病院泌尿器科は、1928(昭和3)年の「昭和医学専門学校付属医院」開院と同時に設立されました。時代の先端を行く泌尿器科学の研究、教育、診療の充実をはかるため、教室員には海外留学を積極的に勧め、研究だけでなくその国の医療の実態についても臨床研修を体験するように指導しています。臨床では、泌尿器科一般疾患に対する治療を行うとともに、尿路性器腫瘍に対しては、手術、化学療法、放射線治療(放射線科と連携)と、幅広い治療を行っています。2005(平成17)年に小線源療法を導入するなど先進的医療についても積極的に取り入れ、治療にあたっては「患者様と共に考え、学間し適切な治療を選択する」をモットーとし、「がん」についても新しい医療がただちに享受できるよう「告知」を原則としています。