パーヒューザミン注/ダットスキャン静注 パーキンソン症候群 症例アトラスシリーズ 多系統萎縮症パーキンソニズム型 MSA-P 症例提供 順天堂大学医学部附属順天堂医院 順天堂大学医学部附属順天堂医院 脳神経内科 波田野 琢
・掲載されている薬剤の使用にあたっては、各製剤の最新の電子添文を参照ください。
・紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
・3D-SSP/3D-SSPTomo/DaTViewによる画像解析は「核医学画像解析ソフトウェア medi+FALCON」を使用することで実施可能です。
(※認証番号:301ADBZX00045000)
・画像提供:順天堂大学医学部附属順天堂医院

DATシンチグラフィは黒質線条体系の変性を伴うパーキンソン症候群とそれ以外の疾患との鑑別に有用とされている(1

一方、進行性核上性麻痺における脳血流シンチグラフィでは前頭葉の血流低下が特徴的という報告がある(2

今回、DATシンチグラフィと脳血流シンチグラフィを併用することで他疾患との鑑別に至ったケースを報告する。

1)Hauser RA, Grosset DG. [123I]FP-CIT(DaTscan) SPECT brain imaging in patients with suspected parkinsonian syndromes. J Neuroimaging. 2012. 22: 225-230
2)R Cilia, G Marotta, R Benti, G Pezzoli, A Antonini. Brain SPECT imaging in multiple system atrophy. J Neural Transm. 2005. 112: 1635-1645.

診断病名 多系統萎縮症(パーキンソニズム型 MSA-P)

50歳台後半 女性
主 訴 手に力が入らない、歩行困難。
既往歴 特記すべきことは無し。
家族歴 類症なし。
現病歴
X-2年頃 顔のこわばり感、肩こり、左の手足に軽度の動かしにくさを自覚。自転車には乗ることができた。
X-1年3月頃 家族より動作緩慢を指摘される。脳ドックを受けて頭部MRIでは明らかな異常を指摘されなかった。
X-1年9月頃 転倒することが多くなり、振戦を自覚するようになった。また、声の出にくさが出現した。この頃に一度だけではあるが、睡眠時に夢と現実とが区別をつかなくなる行動をしていたことを家族に指摘された。便秘や頻尿の自覚はなかった。
X-1年12月 近医受診され、DaTSCANおよび心臓交感神経シンチグラフィが行われた。DaTSCANでは両側線条体尾側部の取り込み低下を認め、心臓交感神経シンチグラフィでは正常であった。神経学的所見および脳ドックにおける頭部MRIが正常所見である事からパーキンソン病と診断された。
X年3月 症状が進行したため精査加療目的にて当院紹介受診。
初診時神経学的所見
前頭葉兆候はなし。眼球運動制限はなく、眼振も認めない。麻痺はないが、全体的な無動があり、姿勢保持反射障害は認めない。歩行は自立しており、継足歩行も可能である。左手優位に姿勢保持で振戦を認める。左優位に両側上下肢に筋強剛を認める。指鼻試験、膝踵試験、回内回外運動では明らかな測定異常や協調性障害は認めない。自覚的には高度の便秘や排尿障害は認めなかったが、Schellong試験で臥位血圧118/72mmHg、脈拍81回/分、立位1分後84/52mmHg、脈拍94回/分と脈拍は軽度上昇しているが、収縮期血圧30mmHg、拡張期血圧10mmHg以上の低下を認め、陽性と判断した。MMSE 30点。
画像検査所見
再検査した頭部MRIで小脳の萎縮や脳幹部の異常所見は認めないが、T2強調画像で両側被殻背外側にスリット状の異常低信号域を認めた。IMP-SPECTでは両側基底核(被殻)の血流低下を認める。DaTSCANでは両側線条体の集積低下を認め、ドット状の集積となっている。
治療・経過 L-ドパ製剤450mg、セレギリン5mg、ロチゴチン貼付9mgで加療しており、ヤール3度のパーキンソニズムである。抗パーキンソン病薬に対する有効性は軽度である。
画像検査所見
MRI(再検査時の画像)
T1WI

 

FLAIR

 

画像検査所見

頭部MRI T2強調画像軸位断で脳幹部の萎縮や小脳萎縮は明らかではないが、両側被殻の萎縮とスリット状の異常低信号域を認める。

 
パーヒューザミン®注(123I-IMP)

Original 画像
Original画像
 

3D-SSP/Tomographic解析画像(血流画像/Decrease Z-score画像)
3D-SSP/Tomographic解析画像(血流画像/Decrease Z-score画像)

画像検査所見

頭頂部及び両側基底核(被殻)に血流低下を認める。

ダットスキャン®静注(DaTSCAN)

Original 画像
Original画像
 

DaTView 結果画像
DaTView結果画像

画像検査所見

線条体への集積はドット状であった。また、ファントム較正後のSBRは右3.14、左3.77で正常域を下回っており、黒質線条体神経の障害が考えられた。

Report2画面

症例アトラス作成にあたり改めて較正SBRを算出した。

上図の数字は、ファントム較正前のSBR※

※SBRは使用機種、コリメータ、画像再構成法等によって変動します。

まとめ

固縮、振戦、無動を認め、眼球運動制限や眼振、失調症状はなく、継足歩行も可能であったが心臓交感神経シンチグラフィでは心臓交感神経への異常が指摘されなかった。
自律神経障害が目立ち、抗パーキンソン病薬の効果が乏しく、多系統萎縮症(MSA-P)との鑑別が必要な症例であった。
MSA-Pを診断するためには、運動失調、自律神経障害の存在、および頭部MRIにおける被殻や脳幹及び小脳萎縮が重要である。本症例は発症時の頭部MRIで異常は指摘されておらず、初診時の症状は比較的軽度のパーキンソニズムであり診断は難しかった。
DaTSCANでは両側線条体の障害があり、IMP-SPECTで両側被殻の血流低下を確認したため、頭部MRIの再検査を行うと両側被殻に萎縮を認め、本症例はMSA-Pと診断した。早期では頭部MRIに異常を認めない場合もあり3)、臨床症状からパーキンソン病と鑑別が困難な症例において、IMP-SPECTおよびDaTSCANを併用することで鑑別に至ったケースを報告した。

 

参考文献

3)H Watanabe, Y Saito, S Terao, T Ando, T Kachi, E Mukai, I Aiba, Y Abe, A Tamakoshi, M Doyu, M Hirayama, G Sobue. Progression and prognosis in multiple system atrophy: an analysis of 230 Japanese patients. Brain. 2002. 125: 1070-1083.

SPECT 収集・再構成条件
  パーヒューザミン® ダットスキャン®静注
機種名 シーメンスSymbiaE/SymbiaS シーメンスSymbiaE/SymbiaS
データ処理装置 syngo syngo
使用コリメータ LMEGP LMEGP
投与量 222MBq 167MBq
撮像開始時間 投与 20分後 投与 210分後
収集モード continuous continuous
収集角度 4度/step 4度/step
ステップ数 45×2 45×2
収集時間 20min(2.5min×8) 25min(2.5min×10)
収集拡大率 1.45 1.45
マトリックスサイズ 128×128 128×128
ピクセルサイズ 3.3mm 3.3mm
スライス厚 3.3mm 3.3mm
前処理フィルタ Butterworth
後処理フィルタ Gaussian FWHM 6.6mm
再構成フィルタ ramp
オーダー 8
カットオフ周波数 0.35Nyquist
画像再構成法 FBP Flash 3D(iteration:9, subset:10)
減弱補正 Chang(μ=0.10cm-1) なし
散乱線補正 MEW法 なし