日本の現状を考慮した適切な検査法選択

 

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2.各論

安定冠動脈疾患診断のファーストラインとしての冠動脈CTA (解剖学的評価)

 冠動脈CTAは日本では最も広く普及している画像診断法のひとつであり、安定冠動脈疾患の診断においては閉塞性冠動脈疾患の検査前確率が高度な場合でもファーストラインの検査法として確立している。また、血行再建時には冠動脈CTAにより事前に解剖学的情報を得ておくことで治療戦略が立てやすいというメリットもある。
 メタ解析では、64列CTまたは2管球CTによる閉塞性狭窄(>50%)の診断能は感度89%、特異度96%、PPV78%、NPV98%と報告されており8)、閉塞性狭窄病変の除外に十分な診断能を持っていると考えられる。それだけでなく、冠動脈CTAは将来的に急性冠症候群の発症リスクが高い冠動脈プラークの評価にも有用である9)。FFRで虚血陰性の冠動脈でも、高リスクの特徴を複数持つプラークが存在する場合にはイベント発生リスクが高いことも報告されている10)。つまり、冠動脈CTAで閉塞性冠動脈疾患がなくても、高リスクプラークがある場合は、予防的薬物治療を開始できるメリットがある。SCOT-HEART試験11)では、冠動脈CTAを最初に実施した群では、標準ケア群よりも二次予防としての至適薬物治療(OMT)導入率が高かったことが、患者の良好なアウトカムと関連したと考えられている。ただし、PROMISE試験の事前設定されたサブ解析では、65歳以上の高齢者において機能的検査のみが心血管死/心筋梗塞のリスク層別化に有用であり、解剖学的検査はリスク層別化できなかった12)
 さらに、前述のとおり、閉塞性冠動脈疾患があっても必ずしも虚血を伴うとは限らない。また、冠動脈CTAで陽性判定後に、心筋血流SPECTなどの非侵襲的な機能的検査を実施しない場合は侵襲的冠動脈造影の実施率が高く、アウトカムにも差がないことが示唆されている13)。フォーカスアップデート版においても、ほとんどの安定冠動脈疾患のケースで、機能的検査なしに侵襲的冠動脈造影を施行することは推奨されていない2)。冠動脈CTAで閉塞性冠動脈疾患を検出した場合は、次のステップで虚血評価が必要と考えられる。

8) Schroeder S, et al. Eur Heart J 2008; 29: 531-556.
9) Motoyama S, et al. J Am Coll Cardiol 2007; 50: 319-326.
10) Lee JM, et al. J Am Coll Cardiol 2019; 73: 2413-2424.
11) Newby DE, et al. Engl J Med 2018; 379: 924-933.
12) Lowenstern A, et al. JAMA Cardiol. 2020; 5(2): 193-201.
13) Bittencourt MS, et al. Circ Cardiovasc Imaging 2016; 9: e004419.
2) 2022年JCSガイドラインフォーカスアップデート版安定冠動脈疾患の診断と治療
リスク層別化エビデンスの豊富な心筋血流SPECT (非侵襲的虚血評価法)

 心筋血流SPECTのエビデンスは豊富にある。正常所見であれば予後は良好であり14)、異常所見の場合はその重症度に応じて心イベントの発生率が高くなると報告されている。本邦でも多施設共同研究J-ACCESSにより同様のエビデンスが報告されており、負荷時血流欠損(SSS: summed stress score)の程度により3年間の心事故発生確率に有意差を認めた15)。この結果から、リスクテーブル16)や心事故リスク計算ツール*が開発され、日常診療における心イベントリスク評価に応用することが可能である。また、負荷心筋血流SPECTにより算出される虚血心筋量が10%以上と広範であれば、薬物治療より早期血行再建のほうが心イベントリスクが低いとの報告が国内外からなされている17-19)
 侵襲的FFRのカットオフ値0.75も、心筋シンチグラフィを含む非侵襲的評価法を基準に決定された20)。最近ではハードイベント発生に基づくカットオフ値の考え方もあり、FFR≦0.64でDeferral群と血行再建群間のハードイベント(心臓死および心筋梗塞)発生率に有意差を認めたと報告されている21)。また、川村らは、心筋血流SPECT陰性例のうちFFR<0.80の症例は41%いるが、ハードイベントのカットオフ値であるFFR<0.65の症例は全体のわずか6%であったと報告しており22)、心筋血流SPECT陰性ならdeferしてもハードイベントは少ないといえる。一方で心筋血流SPECT陽性群においてFFR<0.80の症例は78%存在したことから、心筋血流SPECTによる治療戦略の妥当性を報告している22)

 

図4
心筋血流SPECT所見とFFRの関係
LAD
non LAD
ALL

22)Kawamura I, et al. Circ J 2021; 85: 2043-2049(.一部改変)


14) Iskander S, et al. J Am Coll Cardiol 1998; 32: 57-62.
15) Nishimura T, et al. Eur J Nucl Med Mol Imaging 2008; 35: 319-328.
16) Nakajima K, et al. Circ J Circ J 2012; 76: 168-175.
17) Hachamovitch R, et al. Circulation 2003; 107: 2900-2906.
18) Moroi M, et al. Int J Cardiol 2012; 158: 246-252.
23) Driessen RS, et al. J Am Coll Cardiol 2019; 73: 161-173.
24) Fairbairn TA, et al. Eur Heart J 2018; 38: 3701-3711.
25) Mickley H, et al. JACC Cardiovasc Imaging 2022; 15: 1046-1058.
26) Hacker M, et al. J Nucl Cardiol 2011; 18: 700-711.
27) Engbers EM, et al. Circ Cardiovasc Imaging 2016; 9: e003966.
19) Yoda S, et al. J Cardiol 2018; 71: 44-51.
20) Pijls NH, et al. N Engl J Med 1996; 334: 1703-1708.
21) Ahn JM, et al. Circulation 2017; 135: 2241-2251.
22) Kawamura I, et al. Circ J 2021; 85: 2043-2049.
*核医学画像解析ソフトウェア medi+FALCON Heart Risk View-S(日本メジフィジックス株式会社)
新しい虚血評価法として注目されるFFRCT(非侵襲的虚血評価法)

 FFRCTは、冠動脈CTAにより作成した3D冠動脈樹に生理学的モデルを当てはめ、スーパーコンピュータを用いて流体力学解析を行うことでFFR値を推定する方法である。冠動脈CTAで閉塞性冠動脈疾患があった場合に、心筋血流SPECTを実施するのは追加検査となるが、FFRCTなら冠動脈CTAのデータから解析可能であることがメリットである。
 その診断能に関しては多数の報告がある。PACIFIC FFRCT study23)では、侵襲的FFR≦0.80を基準として、FFRCT、冠動脈CTA、心筋血流SPECT、心臓PETの診断能を比較した結果、ROC解析によるAUC(area under the curve)はFFRCTが最も高かったと報告している。なお、この PACIFIC FFRCT studyにおけるFFRCTの感度・特異度から計算されたNLRは0.06であり、冠動脈CTAの0.19や心筋血流SPECTの0.42より低く、虚血を伴う冠動脈疾患のルールアウトに適していることが予想される(表1)。一方、FFRCTのPLRは2.59であり、FFRCTが陽性所見の場合の検査後確率は高くないため、偽陽性が多く、FFRCTの結果のみで血行再建を行うのはためらわれる(冠動脈CTAと心筋血流SPECTのPLRはそれぞれ2.64、8.71(表1))。FFRCTに関する国際的多施設前向きレジストリーADVANCE registry24)では、FFRCT>0.80の場合は予後良好であることが示されている。しかし、FFRCT≦0.80で虚血陽性と判定した場合、血行再建を実施した割合は34.8%に過ぎなかった。

 

表1

冠動脈CTA、FFRCT、心筋血流SPECTの診断能の比較
PACIFIC FFRCT studyにおける各検査法の診断能(Per Patient Analysis)。
PLRおよびNLRは感度および特異度を用いて計算した。

 
  
AUC
正診率
感度
特異度
PPV
NPV
PLR
NLR
冠動脈
CTA
0.81
76%
87%
67%
69%
87%
2.64
0.19
FFRCT
 
0.92
78%
96%
63%
68%
95%
2.59
0.06
心筋血流
SPECT
0.75
78%
61%
93%
88%
74%
8.71
0.42

23)Driessen RS, et al. J Am Coll Cardiol 2019; 73: 161-173.
※Table 3のデータを用いて作表。PLR/NLRは、感度/特異度を用いて計算。

 

 

 また、注意点として、冠動脈石灰化スコア>399の症例では診断能(特にPLR)が低下する(FACC試験25))。石灰化スコアが高い患者ほど虚血を有する割合が高いとの報告があり26,27)、血行再建の実施が考慮される可能性が高いと考えられる。FFRCTによる診断を行う際の患者選択には注意が必要と考える。

 


23) Driessen RS, et al. J Am Coll Cardiol 2019; 73: 161-173.
24) Fairbairn TA, et al. Eur Heart J 2018; 38: 3701-3711.
25) Mickley H, et al. JACC Cardiovasc Imaging 2022; 15: 1046-1058.
26) Hacker M, et al. J Nucl Cardiol 2011; 18: 700-711.
27) Engbers EM, et al. Circ Cardiovasc Imaging 2016; 9: e003966.