冠血行再建への画像診断の活かし方
下壁に集積低下を認める例 アーチファクト鑑別のコツ
- ― 左室機能解析の局所壁運動や LVEFを参照する
- ― 集積低下の境界は明瞭?不明瞭??
- ― 下壁寄りの中隔の集積低下の有無に着目する
- ― 迷う症例は SPECTのみで無理に判定しない(診断に迷ったら冠動脈 CTなども加えて評価する)
症例1 | 60歳代、男性、160cm/58kg | 主 訴:労作時息切れ |
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既往・リスクファクター:甲状腺機能低下症、脂質代謝異常 |
安静時に下後壁に軽度の集積低下、負荷時には後壁を主体に中等度の集積低下を認めた。
グレースケールでは集積低下部位と周囲の正常部位との境界は不明瞭である()。
カラースケールも参考になるが、過大評価に注意する必要がある。右冠動脈の虚血ではよく見られる中隔下部の集積低下も認めなかった。
左室機能解析では下壁に壁運動低下を認めない。
また、負荷時の方がEFが低下しているように見えるが左室駆出率は正常範囲に保たれており、5%の差は誤差範囲内と判断できる。
冠動脈造影では右冠動脈に有意狭窄を認めなかった(下図)。
- ● グレースケール表示で、下壁の集積低下部位と周囲の正常領域との境界が不明瞭。
- ● 集積低下部位の左室壁運動は保たれている。
症例2 | 80歳代、女性、155cm/57kg | 主 訴:労作時息切れ、胸部違和感 |
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既往・リスクファクター:2型糖尿病、脂質代謝異常、高血圧、家族歴 |
側壁寄りの下壁に安静時には軽度~中等度の集積低下、負荷時に中等度~高度の集積低下があり、非貫壁性梗塞と心筋虚血が疑われた。
グレースケールでも集積低下と正常領域との境界は明瞭である()。
しかし、右冠動脈本幹病変で描出されることの多い中隔下部の集積低下はなく、右冠動脈末梢(#4)あるいは大きな回旋枝末梢の狭窄が疑われる。冠動脈造影では回旋枝末梢に慢性完全閉塞を認めた()。
- ● グレースケール表示で、集積低下部位と周囲の正常領域との境界が明瞭である。
症例3 | 70歳代、男性、170cm/90kg | 主 訴:労作時息切れ |
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既往・リスクファクター:2型糖尿病、脂質代謝異常、高血圧、慢性腎臓病(I期) |
SPECTでは安静時の下後壁に軽度~高度集積低下があり、負荷時には心尖部寄りの領域を中心に
軽度~中等度の虚血を認める()。
集積低下部位と正常領域との境界は明瞭で()、中隔下部にも集積低下がおよび、右冠動脈本幹(#1~3)の狭窄病変が疑われた。
また、左室駆出率も50%以下に低下しており虚血の存在を疑う所見と取れる。冠動脈造影では右冠動脈に慢性完全閉塞を認めた()。
- ● グレースケール表示で、集積低下部位と正常領域との境界が明瞭である。
- ● 集積低下部位の左室壁運動が低下しており、左室駆出率も50%以下に低下している。
一方、深部減衰や横隔膜の吸収によるアーチファクトでは不明瞭になることが多い。
カラースケール表示も参考になるが、過大評価に注意する必要がある。アーチファクト
との鑑別や集積低下の程度の判定にはグレースケール表示が推奨される。
また、血流低下領域がある程度広範囲になれば、左室駆出率も低下することが多い。
中隔下部の集積低下を認めない場合には、中隔枝の分岐より末梢の右冠動脈(#4PDや#4AV)、大きな回旋枝末梢の狭窄病変、もしくはアーチファクトを考慮する。
腹臥位像でも下壁の集積低下が変わらない場合には真の血流低下と判定する。(撮影時間の短い半導体では特に推奨される)
下図の症例では腹臥位で下壁の集積低下が消失し()、アーチファクトと判定できる。