最近、急激に増加している前立腺がん。2020年には日本人男性の罹患者数が、肺がんに次いで第2位のがんになるという予測もされています。この男性特有の病気について昨年12月9日、高知市かるぽーとで市民公開講座が開かれました。
当日は、たくさんの来場者があり、この病気に対する関心の高さを伺わせました。執印太郎・高知大学教授らの講演、パネルディスカッションで、早期診断の重要性、最新の治療法について理解を深めた講座の様子を紹介します。
(コーディネーターは井津葉子・RKC高知放送アナウンサー)
前立腺は、男性の膀胱と尿道の間にあるクルミ大の臓器で、精子を守る役割のあるタンパクをつくっています。50歳以上の年齢になると、前立腺肥大症や前立腺がんという男性特有の病気を発症します。前立腺がんは、40歳代ではほとんどありませんが、50歳代から少しずつ発症し、加齢とともに増えてきます。80歳代を越しますと、人口10万人に対し、300人という相当の数になってきます。
高知市では16年度から18年度は、市医師会、前立腺財団の協力のもと、基本検診の一環として追加料金の1,600円を払えば、PSA検査という前立腺がんを調べる血液検査を実施しました。これは本当に早期診断に役に立つ検査で、50歳以上になられたら、一年に1回はPSA検査を受けていただければと思います。
前立腺がんの進行は比較的ゆっくりです。PSA検査で早期診断、早期治療をすれば根治しやすいがんになりました。早期のときはまったく症状はなく、少しずつ進行してきますと、尿が出にくい、残尿感、排尿の時に痛みがある、人によっては尿に血が混じるという症状が出てきます。さらに進行してきますと、骨やリンパ節に転移して、腰痛や四肢が痛くなることもあります。ですから、腰痛のひどい方などは注意してください。
PSAとは前立腺特異抗原という英語の頭文字で、前立腺で作られるタンパク質の一種です。前立腺がんになりますと、大量のPSAが血液の中に出るようになり、この値を測ることによって、前立腺がんが診断できるわけです。PSAの値が高い場合には前立腺がんが強く疑われますが、本来、前立腺の正常な部分でつくられているタンパク質なので、前立腺肥大症、それから前立腺炎などでも、PSAの値は増加します。値が高い場合は他の検査と合わせて検査する必要があります。肛門から指を入れて、前立腺の形や固さを調べます。その後、超音波検査を行います。さらに疑わしい場合は、前立腺の組織検査を行います。前立腺に細い針を刺し、細胞をとって顕微鏡で確認するという方法です。もし、がんがあった場合は広がり具合や進行度を検査します。
前立腺がんは遺伝性が若干関係していると言われています。前立腺がんの方が肉親にいる場合には、一応注意してください。前立腺がんは日本人は非常に頻度が少なく、白人や黒人が最も多いと言われていました。しかし、日本人も食生活が欧米化して、発生率は増加しています。ですから、食事中の脂肪分を減らす。野菜や果物をより多く摂取する。特に豆類のタンパクは植物性の女性ホルモン的作用もあり、前立腺に良いと言われています。食生活に気をつけて、50歳を過ぎたら、一年に1度はPSA検査をして、いつまでも健康でいましょう。
前立腺がんの治療には、大きく分けて内分泌治療で男性ホルモンを抑える全身的治療と、手術や放射線療法を行う局所治療、それ以外に経過観察という方法があります。
前立腺の手術は、前立腺と精嚢腺を切り取って、膀胱と尿道を縫い合わせて行います。この手術は早期であれば、完全に治る可能性が非常に高いのが特徴です。手術時間は約3時間。2〜3週間の入院が必要です。手術の対象は前立腺がんの限局している方。また、年齢が75歳以下で手術の負担に耐えられる方になります。合併症としては尿漏れや、前立腺の横の神経を痛めると、勃起をしなくなるというような合併症が見られます。
一方、最近よく行われるようになってきたのが放射線治療です。おなかを切りませんので、手術に比べ負担が少ない。したがって75歳以上でも元気な方なら受けられます。
高知大学で行っている放射線治療は3通り。外部照射、組織内照射と外部照射の組み合わせ、そして組織内照射だけです。
外部照射は体の外から放射線を当てるだけなので、体への負担はすごく少なく、外来通院でも行えます。これもやはり局所の治療法ですが、多少周りに侵潤している方でも行えます。最近は原体照射といって、放射線を出す機械が回転しながら治療できるようになっています。ただ、前立腺がんを根治しようと思うと、治療を約2カ月間続けなければならないという問題があります。
それに対して組織内照射法というのは、股の間から針を前立腺に刺して、その中に放射線の出るものを通して、中から放射線を当てる方法です。
これも二通りあり、一つはイリジウム192という放射線がでる物質を使う高線量率療法があります。
もう一つはヨード125密封小線源療法です。この治療では5ミリぐらいのシードと呼ばれる放射線の出るものを、80〜100本ほど埋め込んでいきます。限局性前立腺がんの治療成績は手術とほぼ同じ。副作用は、治療中の排尿障害や頻尿。治療後、何年かすると尿道が狭くなったり、直腸に潰瘍ができることもありますが、頻度としては数%と言われています。
もう一つの治療法は内分泌治療といって男性ホルモンを抑える治療方法です。前立腺は男性ホルモンの影響を受け、そのがんも同じように影響を受けています。この男性ホルモンを断つ全身的な治療が内分泌療法です。注射と内服薬ですから放射線療法や手術と比べると負担は少なく、80歳以上の方でも治療できます。抗ガン剤とは違いますので、髪が抜けたり、吐き気がするという副作用はありません。しかし、男性ホルモンが減少することにより性機能や筋肉量が落ち、それに伴い総コレステロールや血糖値が上がることがあります。
検診と、普通の外来で見つかる前立腺がんを比較したことがありますが、検診で見つかる場合は、圧倒的に早期がんが多いのです。前立腺の場合、早期がんは正しい治療を行えば根治できる可能性が非常に高い病気です。まずはPSA検査を受け、早期に見つけることが大事だと思います。
プロ野球を辞めたのは25年前。野球をしている時は病気や怪我をすると仕事ができなくなりますから、健康には人一倍気を使っていましたし、野球を辞めた後も、健康に対する意識はずっと持っていました。
野球をしていた時は、目標を持ってトレーニングをしていましたが、辞めた後はやはり運動不足になってしまいます。幸いなことに、現役を辞めた時から、野球の解説者としてマイクの前に立つことができました。目の前のプレーを見ながら、ぱっとしゃべるんです。そこで、ちょっときついことを言ったり、監督や球団の悪口を言うと、けっこうストレス解消になりました。言いたいことを言っているうちに、こいつは面白いということになりました。また、仕事が忙しいというのは体も消耗している気もしますので、極力いろんな仕事にチャレンジするという、一石二鳥のスタイルでやってきました。
40歳、50歳になってくると、定期的に検査に行きますが、コレステロールや血糖値、尿酸が高くなったりと、自分でも思っていないような数字が出てびっくりしました。そこでスパに行ってトレーニングをしたり、自転車を漕いでみますが長続きはしないんです。こういうものを継続するには、けっこう精神力がいります。12年ほど参議院議員を務めていた時は、特に運動ができませんでした。このときも非常に苦しみましたが、精神的な面と、体をある程度動かすには、ゴルフがいいと思いまして、議員の仕事が終わった後、ここ1、2年は熱心にゴルフをするようになりました。ゴルフは人と一緒に争ったり、人のプレーを見て笑ってストレスが発散できます。景色や空気もいい。カートにはなるべく乗らないよう極力歩いて、スコアを気にせず楽しんでいます。
もう一つ大事なのは、だんだん年をとってくると、病気やその前兆が出てきますから、気付いた時に、すぐ医者に診てもらえる環境をつくること。私は野球選手時代からいろんな医者と知り合うことができまして、なにか悪いときにはすぐ診てもらえるという安心感を持っています。その関係を大事にしているというのが、私のもう一つの健康法です。
──江本さん、50歳以上の年齢の男性の代表として、高知大学のお二人にお聞きになりたいことは。 | ||
PSA以外に検査の方法はあるんですか。 | ||
現在はPSA検査が我々も一番判断しやすく、分かりやすい検査です。直腸診や超音波をやらなくてもPSAだけでいいというのが今の流れです。 | ||
この検査はどの程度の頻度でやればいいんでしょうか。例えば一年に1回とか、半年に1回とか。 | ||
50歳を過ぎた方は毎年測った方が安全かと思います。 |
以前検査したときは、普通の検診のついでに血を採ってもらって、じゃあ前立腺も見ておきましょうかって、ちょっと多めに血を採られましたが、その形でいいんですよね。 | |
それでけっこうです。 | |
──1年で値が一気に上がるという場合もありますか。 | |
値の低かった人が突然上がったという場合には、がんが疑わしいと判断します。 |
──高知県の検査状況はいかがですか。 | ||
企業検診もあるので一概には言えませんが、昨年、高知市の基本検診でPSAのオプション検査をされた方は300人ぐらい。 この前、南国市で集団検診をしたんですけど、そこに集まった方が200人ぐらいで、人口の差を考えると、高知市の方はあまり興味がないという印象はあります。 |
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全国で高いところはあるんですか。 | ||
群馬県は検診に力を入れています。北陸地方の方もけっこう受診率が高いと聞いています。 | ||
前立腺の肥大化したところから悪性のがんに進行していくことはありますか。 | ||
肥大症と前立腺がんは別の病気ですので、移行するということはないですね。 | ||
がんの疑いがある場合の組織検査というのは、 どんな風にやりますか。 |
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肛門から超音波の機械を入れて、画像を見ながら注射の針のようなもので、組織を取る検査になります。 | ||
がんの場合、どんな治療方法がありますか。 | ||
がんがどのくらい広がっているのかが大事になってきます。前立腺だけなら、若い方は手術や放射線治療を選択される方が多いようです。 | ||
治療した後の性機能障害っていうのも聞きますが。 | ||
手術で神経を完全に切ってしまうと、性機能障害が100%起こってしまいます。放射線治療にしても、外部照射治療では徐々に悪くなっていきます。密封小線源療法では7割ぐらいの方が機能は温存されると言われています。 | ||
それでは、密封小線源療法にはどんな特徴があるんですか。 | ||
日本では3日ほど入院しますが、アメリカでは、朝来て治療して夜帰る場合もあります。お腹の中から放射線を出しているので、1、2カ月は赤ちゃんや妊婦さんなどと接触するのを避ける必要があります。 それも1メートル離れていればいいので、同じ部屋にいるのは別に問題はないんです。 |
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──がんの治療をするためには経済力も必要だなんてことを言いますよね。 | ||
治療中の入院も含めた場合、密封小線源療法では80〜100万円ぐらいかかります。手術の場合は150万円ぐらい。放射線治療の外部照射でも130万円と高いんです。薬で治療しても1年間通じてやると、100万円近くはかかります。 | ||
ただ自己負担は保険の負担率によって違いますが、たとえば70歳未満の方で医療費が100万円かかった場合、3割負担なら30万円を負担していただくことになります。平成19年4月からは高額療養費の制度が変わって、自己負担限度額までを支払えば良くなるので、一時的な支払いも少しは楽になると思います。 | ||
50歳以上の高齢の方の病気だと言われていますが、若い人にはないんですか。 | ||
40歳代の方って非常に少ないですね。交通事故などで解剖検査をやりますと、我々ががんと呼ばないようなタイプの、本当に小さいがんは30歳台から、2、3割の方にあると言われています。 | ||
──最先端の医療について知らない事ってたくさんあるんだなって思いましたが、江本さんはどんな感想がありますか。 | ||
最近忙しかったものですから検診に行くひまがなかったんですが、早めにPSA検査を受けに行きます。 | ||
リスクを少なくするためには、早期発見ということがやはり大事になってくると思いますので、皆さんも機会があれば一年に1回ぐらいはPSAの検査を受けてください。 もし、がんがあったとしても一番負担の少ない治療を受けられるように、気をつけていただけたらと思います。 | ||
PSA検査や前立腺がんの治療について、これからもなるべくこういう機会をつくってご説明できるようにしようと思っています。 本日はどうもありがとうございました。 |
前立腺がんを受けるためのPSA検査は、簡単な血液検査です。泌尿器科に限らず、内科などでも検査してもらうことができます。検診や人間ドッグの際に、PSA検査を希望すれば、追加料金を払って受けることもできます。
県内では市町村によって、検診の実施状況は異なっています。PSA検査を単独で、時期を決めて実施している自治体もあれば、基本検診などに合わせて希望者が受ける仕組みのところもあります。対象年齢は50歳以上が多いですが、自己負担額、実施時期などはまちまちです。
実施時期や料金など、詳しいことは市町村や医療機関でご確認ください。
コーディネーター: 井津 葉子(RKC高知放送アナウンサー) |
企画・制作/高知新聞社広告局 |