近年、前立腺がんは急増しており、罹患率は、2020年には日本の男性における部位別がんの中で、肺がんに次いで第2位になると予想されます。しかし前立腺がんの進行は比較的ゆっくりで、効果的な治療法も多いため、早期に発見し治療を行えば完治が期待できる病気です。
前立腺がんの早期発見・適切治療の大切さを知ってもらおうと、9月6日、北海道経済センター(札幌市)で開催されたシンポジウム「がんを知ろう〜前立腺がんの検診から治療まで〜」では、前立腺がんの全容と最新治療の紹介のほか、闘病体験談、パネルディスカッションも展開されました。その概要を紹介します。
前立腺がんを早期発見するためにPSAのチェックを
前立腺は精液の一部である前立腺液を分泌する臓器です。膀胱の下にあり、中を尿道が通っています。前立腺は年齢とともに大きくなり、50歳以降、一層大きくなる傾向が見られます。
平均余命が延び、食生活など環境因子が変化していることに加え、診断法の進歩で発見が容易になったこともあって、日本の男性における前立腺がんの罹患率は急速に高まっています。前立腺がんの罹患率は高齢になるほど高く、発見される平均年齢は70歳前後といわれます。
前立腺がんが発見されるきっかけとして、排尿症状で泌尿器科を受診した、あるいは腰痛などで整形外科を受診したら前立腺がんの骨転移だったといったこともありますが、近年は検診により無症状の状態で発見される人が増えています。
では、症状がないのに、なぜがんが見つかるのか。その指標となるのがPSA(前立腺特異抗原)の値です。本来、血液中のPSAは微量ですが、前立腺の病気になると高い値を示します。PSA値が5であれば約20%、10であれば30%強、50を超える高い値であれば90%以上の確率で前立腺がんが発見されています。
前立腺がんの疑いがある場合の検査法として、PSA検査のほか、直腸診(触診)、超音波(エコー)検査があります。いずれかで異常が認められた場合、前立腺生検で確定診断を行います。生検でがんが検出された場合、病期診断を行い治療に入ります。また、生検でがんが検出されなくても、半年あるいは1年に1回はPSA検査が必要です。
PSA検査は、早期に前立腺がんを発見するとてもよい方法です。早期発見を心がけることが大切です。
各種治療法の中から、最も適した方法を自分で選ぶ
前立腺がんの治療法として、待機療法、手術療法、放射線療法、ホルモン療法、化学療法などがあげられます。「待機」とは何もしないことではありません。前立腺がんの中には増殖速度が非常に遅いがんがあり、状況によってはすぐに治療しなくてもよい場合があります。このような場合はPSA検査でがんの進み具合や勢いを監視しますが、これを待機療法と呼んでいます。
手術療法(根治的前立腺摘除術)は早期であれば完治の可能性が高い治療法ですが、術後の合併症として尿失禁や勃起障害などが見られます。最近は内視鏡を使い開腹せずに手術を行うことも増えつつあります。
放射線療法は放射線でがん細胞を死滅させるのですが、体外から照射する外照射法と、放射線を出す線源を前立腺に埋め込む組織内照射法があります。小線源療法は主に早期がんが対象です。治療効果が大きく副作用も少ない治療ですが、行っているところは全国で100施設(2009年7月末現在)と、いまだ少ない状況です。
ホルモン療法には、男性ホルモンの産生を抑える方法と男性ホルモンの作用をブロックする方法とがあり、双方を組み合わせて行うこともあります。
以上のような治療法で効果が得られない進行がんには、注射による化学療法が用いられています。抗がん剤治療には副作用が見られる場合がありますが、あらかじめ対策を立てておくことで症状の悪化を防ぐことができます。
すべての状況に効果のある治療法は、残念ながらありません。また、各治療法に利点と欠点があります。したがって、ご自分の病状や生活の状況、人生観などに合わせて治療法を選択していくことになります。「Aさんには良かった治療が、Bさんにも良いとは限らない」ことも、十分ご理解いただきたいところです。
形勢を把握し自分で治療法を選び後悔しないことです
前立腺がん、あるいは食道がんになった親族がいるので、自分もがんになりやすいかもしれないと思っていました。そこでPSA検査を半年に1度行っていたところ、2007年春にPSA値が4.0を超え、触診により前立腺が大きくなっていることがわかりました。その半年後のPSA値は5.08、さらに半年後には7.26となったので、生検で12カ所採取。結果、4カ所にがんが見つかりました。
将棋にも通じるところがありますが、病気の治療は、現在の形勢を把握することが大事です。病気になったことと向き合い、発病したことによる何らかのマイナスを最小限にとどめること。治療法を決めるに当たり、インターネットや関係図書で調べ、知人の意見を聞き、泌尿器科や放射線科の医師とよく話し合いました。
そうした上で、私は放射線療法を選択しました。週3回のペースで通院して計15回外照射を行い、そのあと4日ほど入院して集中的な照射(高線量率組織内照射)を行いました。
病は気からといいますから、治療中も冗談を言っては医師や看護師を笑わせていました。それが去年の12月のこと。まだ1年たっていませんが、順調に回復しています。
がんになったことは不幸ではあるけれども、恐れるに足らず。これはPSA検査を定期的に受け、治療において正しい判断ができたと思うから言えることです。いろんな情報を整理し、自分自身で治療法を選ぶ。決めたら動かさない。副作用、合併症は仕方のないこととして自分の責任のもとに受けとめられたらいいと思います。
前立腺がんを経験し、患者にとって一番大事なのは、笑いであるとつくづく思います。
前立腺がんの治療は、選択肢が複数あることが多いです。患者さんに「選択肢があります。あなたが決めてください」と言ってくれる先生は、よい先生だと思います。
人によって状況は異なるわけですから、自分が勉強して自分で治療法を決めなければなりません。「あなたはがんです」と言われると、やはり嫌なものです。しかし、自分の命がかかっているので、私は将棋研究の10倍ぐらい勉強しました(笑)。自分で人生を決め、決めたら微動だにしないことです。
父の晩年の11年間、マネジャーを務めましたが、そのうち7年間が病気と共にありました。逝去の翌年からPSA検査を呼びかける活動を始めましたが、男性は注射器嫌いの方が多く、これが難問と実感しています。後押しにはやはり女性の力が必要です。女性からも、周りの大切な方々にPSA検査をお勧めください。
また、ご主人が闘病中という方も多いと思いますが、ご自分の健康にも十分配慮なさってください。患者さんにおかれましては、治療と節制で永らえられますと、より良い薬、より効果的な治療に出合うことができると思っております。
前立腺肥大症と前立腺がんは、まったく別のものですが、自覚症状はよく似ているので「おしっこの出具合が悪い」「血尿が出る」などがある方は、早めに専門医を受診することをおすすめします。
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あくまでもケースバイケースですから、この情報だけで判断するのは難しいです。がんが前立腺の中にとどまっているのなら根治療法も可能なので、泌尿器科の医師は、手術か放射線療法を提示すると思います。しかし、80歳ぐらいの人には、ホルモン療法を提示する場合もあります。医師はガイドラインにのっとり、複数の治療法、およびその患者さんに適応する治療法を説明しなければなりません。納得した上で、ご自分で選択することが大切です。