専門医が語る小線源療法

高リスク症例に対しても高い治療成績 前立腺がんに対する小線源療法の可能性

斉藤 史郎 先生 (国立病院機構東京医療センター泌尿器科医長)

(メディカル朝日 2009年8月号より)


斉藤 史郎 先生

近年、前立腺がんの治療法は著しく進歩しています。なかでも放射線療法は、かつては外照射(がいしょうしゃ)が主流でしたが、現在では小さな線源(せんげん)を前立腺内に挿入し、体内から継続的に放射線を照射(しょうしゃ)する小線源療法が普及してきています。低リスク症例では、手術、小線源療法、外照射のいずれも治療成績は同等であることが示されており、最近では高リスク症例においても、小線源療法と外照射の併用が手術以上の治療成績をおさめているという報告があります。
今回は、小線源療法の現況と高リスク症例への有効性について、国立病院機構東京医療センター泌尿器科の斉藤史郎先生にお話をうかがいました。また、国立病院機構埼玉病院泌尿器科の門間哲雄先生にコメントを寄せていただきました。

放射線治療を変えたコンピュータ技術の進歩

前立腺がんの治療法は、最近になって非常に選択肢が増えてきました。かつて根治可能(こんちかのう)な治療法は手術のみと考えられていましたが、放射線療法が目覚ましい進歩を遂げ、以前よりも高率に前立腺がんを根治させることが可能になってきたのです。この変化をもたらしたのは技術の進歩でした。コンピュータを駆使することで正確な照射が可能になり、従来に比べて侵襲(しんしゅう)が少なく、高い治療効果が得られるようになってきたのです。

放射線療法は、体外から放射線を照射する外照射(がいしょうしゃ)と、体内に入れた小さな線源から照射する小線源療法(しょうせんげんりょうほう)の2つに大別できます。外照射は以前から広く行われてきましたが、コンピュータ技術の進歩により、より正確に前立腺に限局した照射が可能になっています。その結果、直腸や尿道など周囲の組織への影響が抑えられ、多くの線量を照射できるのです。かつては60~62グレイ、現在では76~78グレイが一般的です。小線源療法では、ヨウ素125が密封されているチタン製の小さなカプセル(長さ4.5mm、直径0.8mm)を、前立腺の中に挿入します。挿入する位置や量はコンピュータで計算し、必要な部位に必要な量の放射線が照射されるよう設定します。数は前立腺の大きさによって異なりますが、50~100個程度で、挿入された線源からはおよそ1年間継続的に放射線が照射され、その間にがん細胞を死滅させます。

治療期間やQOL(Quality of Life)で治療法を選択する

前立腺がんの根治療法である手術療法、外照射、小線源療法の治療成績をご紹介します。低リスク症例(PSA<10、グリソンスコア≦6)における治療成績を示したのが図1です。5年非再発生存率で比較すると、治療法によらず、89~90%という結果です。そこで、治療法を選択するにあたっては、治療後のQOL(キューオーエル:生活の質)や治療期間などがポイントとなります。

図1 低リスク症例に対する治療成績の比較

手術の問題点は、やはり侵襲(しんしゅう)が大きい点です。治療後のQOLに及ぼす影響も大きく、尿失禁(にょうしっきん)や性機能障害(勃起機能障害 ぼっききのうしょうがい)が高い確率で起こります。入院期間は2週間程度です。外照射は、放射線を局所に集中させられるようになった結果、治療後の尿失禁や性機能障害など、QOLを損なうイベントは以前より減少しました。もちろん、放射線療法特有の副作用もありますが、かつての外照射のような重い副作用はほとんどみられなくなっています。問題点は治療期間です。たとえば76グレイ照射するためには、1日2グレイで計38日の治療日数が必要になり、週5日行った場合でも、8週間もの通院期間を要することになります。小線源療法は、小さな線源を理想的な位置に挿入することで、QOLに与える影響は最小ですみます。線源を挿入するのに必要な時間は1時間程度で、入院期間は3泊4日に過ぎません。小線源療法は、QOLと治療期間の両面において、患者さんに選ばれる要素を備えていると言えます。

高リスクの前立腺がんに小線源と外照射を併用

悪性度が高い場合や、腫瘍の占める割合が大きい場合には、根治は難しくなります。治療成績の統計を見ても、PSA値やグリソンスコアが高くなるほど、再発率が高くなっています。

たとえば、中リスク(10≦PSA<20、グリソンスコア=7)や高リスク(PSA≧20、グリソンスコア=8~10)の前立腺がんでは、小線源療法だけでは十分ではありません。このような症例には、照射線量を増やすことを目的に、米国では小線源療法と外照射の併用が推奨されてきました。国内ではまだ一般的ではありませんが、当院では小線源療法が承認された当初から行ってきました。

図2 高リスク症例(グリソンスコア8-10)に対する長期治療成績
図3 東京医療センターにおける高リスク症例に対する治療成績

併用する場合、小線源療法、外照射のいずれも6割程度の照射量に減らします。両者を合計すると、それぞれ単独では不可能な線量が照射されることになります。線量を増加させるため軽度の副作用は増えますが、患者さんに苦痛を与えるようなものではありません。

治療成績はどうでしょうか。米国では、「小線源療法+外照射」と「手術」の治療成績が多く発表されています。図2は、グリソンスコアが8~10の高リスク症例に対する成績を比較したものです。「小線源療法+外照射」のほうが優れていることが分かります。

図3は、当院における高リスク症例の治療成績を、「小線源療法+外照射」と「手術」で比較したものです。高リスク症例に対する手術の成績は、日本でも米国でも、5年非再発生存率がだいたい45~55%であり、当院の成績もこれに相当します。一方、小線源療法と外照射の併用は、5年非再発生存率がホルモン療法を併用せずに80%程度になっているのです。
今後、長期に経過をみていく必要がありますが、米国での報告にもあるように、手術よりも小線源療法と外照射の併用が望ましいという結果になると考えられます。従来、高リスクの前立腺がんに対しては、手術を行い周辺部を含めて切除するのがよいと考えられてきました。その常識を覆すデータが出てきているのです。

最近米国では、小線源療法、外照射、ホルモン療法の三者併用により治療成績が向上するとの報告もあります。この点に関しては、日本においても臨床試験を行い検証していく必要があります。QOLと治療効果の両面から、よりよい治療法が確立されることが期待されます。

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門間 哲雄 先生

悪性度の低い前立腺がんに対する小線源療法は根治的治療のひとつとして確立しているが、悪性度の高い場合には外照射を併用した小線源治療が手術を凌駕(りょうが)する治療効果を挙げることが報告されている。前立腺がんの放射線治療における根治性向上に寄与する因子は唯一照射線量(しょうしゃせんりょう)とされ、悪性度の高いがんに対しては超高線量(ちょうこうせんりょう)の照射が有効とされている。小線源治療においては適切に線源(せんげん)を挿入する技術を要するが、超高線量の照射を達成するためには、それに外照射を併用することが必要である。

一方で、照射線量の増加は、尿路、消化管、性機能への有害事象の増加も危惧される。今後の照射線量の増加の可能性を踏まえ、本邦における小線源治療の開始から東京医療センターにてスタッフと共に約500症例および埼玉病院にて200症例以上の治療を施行した経験に基づき、小線源治療と外照射併用による超高線量が及ぼす排尿症状に関する有害事象の検討を行った。その結果、現在の小線源治療及び一般的な外照射併用小線源治療と比較して、超高線量照射の外照射併用小線源治療では治療後1ヵ月目だけに切迫症状の有意な増悪がみられたが、それ以降には特に有意差はなかった。

今回の検討では急性期尿路有害事象(きゅうせいきにょうろゆうがいじしょう)を許容範囲内に抑えながらも照射線量の増加が可能であることが示された。今後は治療効果と共に消化管、性機能も含めた有害事象の長期的検討を行い、本治療が安全で有効に行えることの検証を行うことが必要である。

悪性度の高い前立腺がんには放射線の外照射療法と小線源療法の併用が検討されています。