治療に役立つ心筋シンチー私の使い方3
冠血行再建術後のフォローアップ ~ReACT trialからの知見と負荷心筋血流シンチグラフィの活用例~
紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
ReACT trial とは (Randomized Evaluation of Routine Follow-up Coronary Angiography After Percutaneous Coronary Intervention Trial) |
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PCI後におけるルーチンの心臓カテーテル検査によるフォローアップの長期予後への貢献度を評価した国内多施設共同研究である。
国内22施設において、PCIが成功した700例を登録し、治療から8~12ヶ月後にルーチンの心臓カテーテル検査によるフォローアップ群(Angiographic follow-up(AF)群:349例)と、症状や生理学的検査でフォローアップする臨床的フォローアップ群(Clinical follow-up(CF)群:351例)の2群に無作為割り付けを行い、予後を追跡した(3.1~5.2年間、中央値 4.6年)。両群において、運動負荷心電図、負荷心筋血流シンチグラフィなどの生理学的検査の制限は行われなかった。生理学的検査はCF群で有意に多く施行されていた。 (PCI後1年でCF群33.6%、AF群25.2% [P<0.01]) 一次エンドポイントは、総死亡、心筋梗塞、脳卒中、急性冠症候群による緊急入院、心不全による入院からなる複合エンドポイントであった。累積5年間におけるイベント発生率は、AF群で22.4%、 CF群で24.7%と有意差は認めなかった(下図)。しかし、1年以内の再冠血行再建率は、CF群が3.8%であったのに対し、AF群で12.8%と有意に高かった (P<0.001)。
本研究において、PCI後のルーチンで行われる心臓カテーテル検査によるフォローアップの臨床的有用性は明らかではなかった。
Shiomi H, et al. JACC Cardiovasc Interv. 2017; 10(2):109-117. |
症例呈示
60歳代 女性
4年前にLAD(#5-7, #9)にPCI、その3ヶ月後ステント内狭窄により#5-11, #5-6, #7, #9にPCIを実施、さらに3ヶ月後に緊急CABGを施行(LITA-LAD, RITA-LCx, SVG-#9)、退院後もLITA-#7, LMT-LCxにPCIを実施した。1年前、心窩部痛の出現により冠動脈造影を施行した。
冠危険因子:喫煙(20本/日×37年・6年前から禁煙)、脂質異常症
4年前にLAD(#5-7, #9)にPCI、その3ヶ月後ステント内狭窄により#5-11, #5-6, #7, #9にPCIを実施、さらに3ヶ月後に緊急CABGを施行(LITA-LAD, RITA-LCx, SVG-#9)、退院後もLITA-#7, LMT-LCxにPCIを実施した。1年前、心窩部痛の出現により冠動脈造影を施行した。
冠危険因子:喫煙(20本/日×37年・6年前から禁煙)、脂質異常症
LAD#6 100%、LCx#11 90%、#13 100%、LITA-LAD 50%()、SVG-#9 50%()で著変はなかった。SVG-#9からLCx末梢に側副血行路が発達していたことと、従来の狭心痛とは異なる心窩部痛であったことから、薬物療法で経過を観察した。
▼ | さらに1年後、フォローアップ目的で運動負荷心筋血流シンチグラフィを実施した。 |
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LCx領域に不完全なFill-inを認めたため、SVG-#9からLCxへの側副血行の灌流低下が疑われ、冠動脈造影を施行した。
動脈造影にてSVG-#9()に90%狭窄(悪化)を認め、薬剤溶出性バルーンで拡張し良好な拡張を得た。その後、狭心痛なく経過している。
実際の運用は?
当院では、再狭窄を無症候性に繰り返す症例やハイリスク症例にかぎり、PCI後の心臓カテーテルでのフォローアップ検査を実施している。その他の例には、症状・負荷検査でフォローしている。 |
治療後のフォローアップに生理学的検査を用いるメリットは?
ReACT trial1)において、PCI後のルーチンの心臓カテーテルによるフォローアップ群と臨床的フォローアップ群で、フォローアップ期間中のイベント発生率に有意差はないと示された。心臓カテーテル検査に伴うコストと侵襲を考慮すると、生理学的検査を用いたフォローアップを行うことで、PCI時の解剖学的形態情報を加味した上で生理学的観点から総合的にPCI後の状態を低侵襲で評価できることは有用と考えられる。 |
生理学的検査の中で負荷心筋血流シンチグラフィを用いるメリットは?
負荷心筋血流シンチグラフィによる心筋虚血の検出感度は運動負荷心電図と比べても高い2)。特に、高齢患者や心不全を発症した患者など、運動負荷が困難な例では薬剤負荷を選択できる点で有用であると考える。 冠動脈CTと比較した場合は、造影剤を使用せずに心筋虚血を評価できる点がメリットである。特に、透析患者など著しい石灰化がある場合や、過去に留置したステント本数が多い例では有用であろう3)。既に冠動脈の形態情報があれば、負荷心筋血流シンチグラフィの異常所見の位置も理解しやすい。。 |
1) Shiomi H, et al. JACC Cardiovasc Interv. 2017; 10(2):109-117.
2) Patterson RE et al. Semin Nucl Med. 1994; 24(4):286-310.
3) 冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドライン. Circulation Journal Vol. 73, Suppl. Ⅲ, 2009: 1019-1089.