治療に役立つ心筋シンチ-私の使い方5

治療に役立つ心筋シンチー私の使い方5
多枝病変例における治療方針決定と治療後フォローアップにおける活用

紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
機能的虚血評価とPCI

―FAME trial1)
虚血の有無や範囲の評価をguideにせずに施行するPCIは、必ずしも患者の予後を改善していない。

―COURAGE trial nuclear sub-study2)
心筋シンチにより心筋虚血が証明された症例では、PCIによる予後改善効果がある。

―FAME2 trial3)4)
FFRによる生理的虚血を指標として施行するPCIの有効性が示された。

2018年4月 診療報酬改定により、安定冠動脈疾患におけるPCI算定要件に機能的虚血評価が加わった。

患者背景

●70歳代の男性。無症候だが近医にて心電図異常を指摘され、精査・治療目的で当院へ紹介。
●冠危険因子:HT[高血圧](–)、DM[糖尿病](–)、DL[脂質異常症](+)、Smoking(–)、FH[家族歴](–)

 

冠動脈CTA

RCA #1に中等度狭窄、LAD #7に中等度狭窄およびHL(high lateral branch)に高度狭窄、LCx #12に高度狭窄を認め、3枝病変と判明した。

 

無症候の患者であり、予後改善効果のある治療戦略を考えるにあたり、機能的虚血評価と虚血範囲の同定の目的で、99mTc-tetrofosminによる運動負荷心筋血流SPECTを実施した。
運動負荷心筋血流SPECT
運動負荷心筋血流SPECT

 

負荷・安静

 

前側壁に高度集積低下 安静時で同部位の不完全fill-inを認める重症虚血所見(黄色矢印)。
Fusion画像で、対角枝領域のHL周辺に明らかな虚血を認め、虚血範囲が大きいことが評価できる(黄色リング)。
側壁に負荷時の集積低下 安静時で同部位のfill-inを認める虚血所見(青矢印)。
Fusion画像で、LCx領域に明らかな虚血を認める(青リング)。
POINT
下壁の集積低下については、CTによる減弱補正後のデータを確認した結果、集積の低下が認められなかったため、虚血所見ではないと判断した。

評価のポイント

Heart Risk View‒S(HRV-S)解析結果

Heart Risk View-S 解析結果

標準データベースとの比較により得られる、集積低下部位の広がり(Extent)と集積低下部位の程度(Severity)、またSubtractionやスコアリングの結果から、対角枝領域だけではなく明らかにLCx領域においても集積の異常があることが指摘されている。
負荷時と安静時の差分スコア(SDS)は、前壁 ‒側壁 ‒下壁領域で算出されており、心筋虚血量に相当する%SDSは、14.7%であった。

CAG および FFR 所見

CAG および FFR所見

CAG所見は、3枝に狭窄を認めた(#1:75%、#7:50%、HL:90%、#12:90%)。
iFR所見は、LAD #7:0.92、HL:ワイヤー不通過、LCx #12:0.57であった。

PCI治療後 CAG

PCI治療後 CAG

心筋血流SPECTによる虚血の重症度の結果から、まずはHLにDCBにて治療を行い、その後 #12にDESを留置した。
PCI治療後、同部位でiFRの結果がnegativeであることを確認した(HL:N/A⇒0.95、#12:0.57⇒0.96)。

PCI治療後フォローアップ時の運動負荷心筋血流SPECT結果(HRV-S)

PCI治療後フォローアップ時の運動負荷心筋血流SPECT結果

PCI治療の10か月後フォローアップにて、運動負荷心筋血流SPECTを実施。
治療前のデータと比較することで、心機能の改善(EF:48%⇒57%)を確認することできた。
PCI治療を行った対角枝領域とLCx領域における虚血の改善が認められるが、完全な集積の改善には至っていないことが評価できる。

POINT
下壁の集積低下については、CTによる減弱補正後のデータを確認した結果、集積の低下が認められなかったこと、また、狭窄の程度も変化していなかったことから、虚血所見ではないと判断した。

冠血行再建により冠動脈の狭窄は改善し、病変の虚血に関してはiFRにより問題ないことが確認された。しかしながら、心筋血流SPECTにおいて完全な集積の改善には至っておらず、残存虚血が認められた。 CAGのみの結果では分からなかったが、フォローアップ時に心筋血流SPECTを行うことで、薬物治療(OMT)の強化が必要な症例であることが判断できた。
今後は、心筋血流SPECTによりフォローしていく。

まとめ
矢印 患者の予後改善に資する治療を行うためには、負荷心筋血流SPECTによる心筋虚血評価が重要である。
・治療前の負荷心筋血流SPECTは、虚血の範囲と重症度を評価できる。
・治療後の負荷心筋血流SPECTは、虚血改善効果と残存虚血の有無を評価できる。
矢印 心筋血流SPECTは、多枝病変例における治療方針の決定に有用であるだけでなく、PCI治療後における薬物治療強化の必要性など、治療後フォローアップにおいても有用である。

 

 

1) Pim A. L. Tonino, et al. N Engl J Med 2009; 360: 213-24.
2) Leslee J. Shaw, et al. Circulation 2008; 117: 1283-91.
3) Bernard De Bruyne, et al. N Engl J Med 2012; 367: 991-1001.
4) Panagiotis Xaplanteris, et al. N Engl J Med 2018; 379: 250-259.