心筋シンチ読影テキスト 総論

ポイント8心筋血流以外の指標による虚血の判定

1. Tlによる、左室全体のWOR

虚血心筋領域でWORは低下する。従って、病変枝数が多いほど左室全体の平均WORが低下している。運動負荷によるWORが35%未満であると多枝病変である可能性が極めて高い。

*著者らの施設データでは、多枝病変を検出する感度・特異度は運動負荷に限ると、WOR<42%を陽性とした場合、56%・82%、WOR<35%を陽性とした場合、24%・94%であった。

*薬剤負荷ではWORと多枝病変との間に有意な関連はない。WORは運動負荷のみで有効なパラメータである。

*透析患者は一般にWORが高値(>60%)のため、多枝病変でもWORが低くならない可能性がある。

2.一過性虚血性内腔拡大(Transient Ischemic Dilatation: TID)

no1.gif 心筋SPECTの短軸断層画像で、負荷時左室内腔が安静に比べて視覚的に明らかに拡大が認められる場合をTID陽性とする。

no2.gif QGSによる拡張末期容量(EDV)で比較する場合は、おおよそ10%程度以上増加している場合を陽性と判断するが、使用核種、負荷方法により基準値が異なるので注意する。

no3.gif 物理的に内腔が広がる場合と、左室内膜側に虚血が出現し、見かけ上内腔が広がるように見える場合がある。

・TID陽性の解釈(図16):(1)多枝病変(2)糖尿病や左室肥大(3)薬剤負荷Tl SPECTの小心臓例。

*必ずしもTID陽性=多枝病変とはならないので注意が必要である。

 

薬剤負荷でTIDを認めた症例

図16 薬剤負荷でTIDを認めた症例

 

3.負荷時LVEFの一過性低下

1 LVEFが正常範囲内で変動する場合は、測定誤差である可能性が高く、有意ととらない方が良い。

2 Tlの場合、負荷後10分以内に撮像することが多いため、負荷により出現した変化を反映している場合がある。しかし、Tlでは数値の精度が落ちるので高度に低下した場合のみ陽性とすべきである。

3 Tc標識製剤による負荷で、負荷後1時間程度経過したQGSでは壁運動が正常に改善している可能性があるため、高度虚血があってもLVEFの低下は起こらない場合が多いので注意を要する。

4.負荷時肺集積増加

1 図5のQGSの表示画面の右上にあるLHR(lung to heart ratio: 肺心臓集積比)を参照。

2 虚血時左室拡張末期圧(EDP)が高くなるほど高値になる。多枝病変で頻度が高い。

3 負荷時LHR>0.5で予後が不良といわれている。