安定冠動脈疾患における虚血評価の現状2
中村 こうした背景を踏まえ、今 年の3月に図3に示す通り、安定冠動脈疾患におけるPCI算定要件に、(ア)、(イ)、(ウ)の3つの条件 が加わりました。
これら3条件の中の1つを満たしたときに初めてインターベンションに対する算定がされます。ここまで、2018年度診療報酬が改定された経緯をお話ししましたが、実際にこの改定の経過をどのようにお感じになられるか。上野先生、横井先生いかがでしょう。
上野 私自身は(イ)が非常に曖昧だなという印象を持っています。また(ウ)という条件の意義は、先ほど先生がお話しになったCOURAGE試験サブ解析3)やFAME2試験1)から、機能的虚血評価をすればもっと厳密な適応になるという判断だと思いますが、実際の診療でどの程度適正に運用されるのかという懸念はあります。実際にこの数カ月を見ていますと、FFRの使用頻度が昨年に比べるとかなり増えている気がしています。これは全例やる必要はないと思うのですが逆に(ア)と(イ)ばかりが増えてしまうと、それを本当に客観的に認めることができる指標があるのか、非常に曖昧で難しいところがあると思います。ですので、もう少しデータを見ながら注意深く見ていかないといけないのかなというのが、今の感想です。
横井 中医協の議論を踏まえますと、本来は(ウ)が一番重要視されるところなのかなと思っています。ただ、いきなり(ウ)だけになってしまったら臨床の現場も混乱する。そういったこともあって(ア)、(イ)が設定されたのではないでしょうか。(ア)に関しては、確かにLADやRCA、LCx含めて近位部病変の1方向から90%以上というのはほぼ虚血があり、FFRをやっても心筋シンチをやっても「虚血あり」と出ると思いますが、側枝や末梢だと、狭窄だけで本当に虚血判定できるのかなという思いは正直あります。
(イ)に関しては、狭窄度も虚血評価も書いていないですよね。実は、昨年ORBITA試験6)というシャムコントロールとPCIを比較した試験の結果が報告され、PCIは虚血を解除するけど症状は取らないというものでした。すなわち、虚血が原因となっている胸痛はPCIで取れるのですが、虚血が原因となっていない胸痛はPCIでは取れないということがORBITA試験で見えてきています。この(イ)についても、また少し議論が必要ではないかなと個人的には思っております。
(ウ)に関しても、じゃあ一体これは何で機能的虚血を評価するのか、運動負荷試験なのか心筋シンチなのかFFRなのか、現場では迷う部分があるのではないでしょうか。ただ、中医協の議論の前提である(ウ)を中心に考えると、われわれ現場ではしっかり評価するということを何とか現実のものにしていかないといけないのかなと感じております。
中村 こういった算定要件を見られて、汲田先生と松本先生は何か感じられることはありますか。
松本 そうですね。今、中村先生がおっしゃられたように、虚血が病変と関連しているということは(ウ)で証明されても、その虚血の範囲・大きさということに関しての指標はないわけです。例えば ESCのガイドライン7)では「左室心筋に10%以上の虚血をできるだけ証明しなさい」と謳われております。まだそこまで踏み込んではいませんが、(ウ)という条件が実際に加えられたことはとても画期的なことだと感じております。
汲田 先ほど上野先生から全国的にFFRが増加しているということでしたが、実際、心筋シンチも増えていると聞いています。それは嬉しいことですが、90%以上狭窄症例で、FFRが0.8以上であった場合、保険適応でなくなるため、あえてFFRを回避するケースも増えるのではないでしょうか。
上野 そこは数字が一人歩きする懸念を持っています。先ほどのCVIT-DEFER(図2)4)では、90%以上狭窄のうち20%は虚血が出なかったということになりますが、虚血が出なかったというのも、極端に言うといつそれをチェックするのかでも変わりますよね。ですので、あんまり厳密に数字だけでやってしまうと、総合的に判断するというところが曖昧になってしまうのが怖いなという気はします。ただそれを許してしまうと、PCIの数が爆発的に増えてしまうかもしれません。
中村 虚血の評価をどうやって行うかということは、FFRにしても心筋シンチにしても、いずれにしても重要なことかなと思います。
松本 もう一つよろしいですか。この(ウ)の機能的虚血評価のための検査は、主にFFRや心筋シンチなどがあげられると思いますが、負荷が厳密には同じ条件ではないという問題があると思います。心筋シンチはアデノシンが保険適応で認められていて、120μg/kg/minで負荷を掛けますけれど、FFRは今180μg/kg/minを使っている施設が結構多いのではないでしょうか。ですので、それぞれの負荷の違いも認識する必要があるのではないかなと考えます。
横井 私もそう思います。FFRもやはり検査の精度が重要です。十分なhyperemiaもそうですし、そのときの圧の測定方法も重要です。ガイディングカテーテルを留置していると変な数値になってしまいます。機能的虚血評価の検査の精度・クオリティーも今後さらに追求していく必要があるなと感じます。