これからの虚血評価を考える2
汲田 近未来どうなるかということですが、まず1つ目は、PETの汎用性を増やさなければいけないということだと思います。先ほど少し触れましたが、今使われているアンモニアは13Nで半減期が10分、自施設でサイクロトロンを持たなければいけないので、これは普及しないですよね。現段階でも、我々の施設を含めて日常でアンモニアPETを行っているのは10施設に満たないです。どうしたら普及するのかというと、これはデリバリーしかないわけです。デリバリーには半減期110分の18Fの製剤を考えなければいけませんが、2017年7月に国内メーカーが18Fの製剤フルルピリダズ(国内未承認薬)のライセンスを取得しました。そうするとサイクロトロンを持っていなくても、PETのカメラさえあればできるということになります。
横井 いいですね。
汲田 現在、PETカメラは400施設、 SPECTカメラを持っているのは1,200施設です。そうすると、特に複数SPECTの装置を持っている場合は1台をPETに入れ替えてしまえば、使える施設が増えるということになります。これが一つの流行るキーワード、 18FのデリバリーのPET製剤です。
もう一つ、より近未来の話をします。従来、心筋シンチでは17あるいは20セグメントをもとに左室心筋の評価を行っていますので、必ずしも冠動脈の走行に合っていないわけですね。心筋シンチで、17セグメントをもとに3枝の領域に分割したもので、例えばLCxの虚血をみると、LCxだけではなくRCAの領域にも重なってしまう症例も多々見かけます。このような問題を解決するために、冠動脈CTの冠動脈走行からVoronoi図を作成し、心筋シンチの左室心筋を冠動脈支配領域ごとに分画するソフトウェアを現在開発中です。図13はLAD#6 90%狭窄の症例です。左図がLAD領域、中央図がS1を出したあとの領域です。右図がD3の直上より末梢の領域を示しています。このように、冠動脈の領域ごとに分割し、その領域の集積、PETでしたらCFRを測定することができます。そうすることによって、これからはFFRなどの他モダリティとSPECT/PETデータとを、冠動脈支配領域ごとに比較し、同じ土俵で考えなければいけない。これが近未来像だと考えています。
中村 実際にPETがより普及するためにはデリバリーでできるようなものが必要だろうということですね。実際に1,200もSPECTができる施設が日本にあるということも私は知りませんでした。
カテーテル治療のできる施設が1,000ちょっとですから、数では同等という事実はかなりショッキングでした。PETがより簡単にできるようになれば、より大きな新しい展開が出るだろうということですね。また、冠動脈支配領域ごとにきれいに分かるということはビジュアル的にも分かりやすいと思います。実際に松本先生、汲田先生のお話を伺って、上野先生、横井先生、将来のイメージ像が何か見えてきましたか。
上野 こういうモダリティを利用しながら、僕らが患者さんに何を与えることができるのかが重要ですよね。美容形成的な血管の修復をすればいいというわけではなく、予後とその症状の改善が重要です。労作性狭心症の診断で入院している人が何回ぐらい胸痛の訴えをしているかというと、僕らが昔教科書で習ったように、階段上ったときに必ず胸痛があるという人はほとんどいないわけです。今の実際の医療現場では、僕らはもっと包括的に患者さんの医療というものを考えていかなければいけない。そのためには、やっぱり色々なモダリティを利用してきちんと評価をしていくのが大事なことかなと思っています。一方で医療経済を考えると、これは「まるめ(包括払い制度)」になってしまう可能性が出てきたなという気もしております。
中村 避けては通れない道ではありますね。横井先生が言ったように、効率的な診断をやらないといけないですよね。
汲田 1ついいですか。例えばPCIする施設で「うち、ちょっとSPECT、PET持っていないので」と言ってやらないことがありますよね。そこはやっぱり、持っていないんだったら連携ができる施設に頼めばいいんじゃないかと思います。
横井 確かに。そのとおりです。
汲田 日本では各種検査で連携する施設が少ないと思うんですよね。やはり核医学施設をつくるのは高価ですので、病・病連携という観点からも、そのような体制をつくり上げたほうがいいのではという気がします。
横井 確かに。私はずっとPCIをやってきたんですが、虚血性心疾患の治療としてのPCIがあり、冠動脈疾患だけではなく虚血をもっと意識しないといけない。それが今回の改定のポイントでもあり、今一度われわれも原点に立ち返るべきではないかなと思います。1990年代から2000年代にかけて、PCIは道具代が高く、ステントを入れれば入れるだけ材料差益もあり、病院の中でも花形でしたよね。適応のことや虚血の評価ではなく、ステントを入れることが病院経営にも直結していましたから。でも今、単価がどんどん下がり、その価値はどんどん下がっているんです。だから、逆に“きちんとやる”。ただステントを入れるだけでは病院の収益は上がらないです。きちんとやることで患者さんを集める、原点に立ち返る時代なんじゃないかなと。きちんと虚血を評価することが、PCIの価値を一番大きくしますし、そのようなことをやれる病院を目指す。できれば、そういった施設がちゃんとした評価を受けられるようになるべきではないかなと思います。
そう考えたときに虚血の評価に関して、FFRやFFRCTは、われわれインターベンションをやっている側からは一番身近に感じるし、PCIの適応を決めるのに単純な方法なんですが、実はあれは直接虚血を見ているわけではないんですよね。仮のものを数値として具現化している。一方で、今日の先生方のお話を聞いていると、心筋シンチは実際に心筋細胞に取り込まれていて、虚血が本当に起こっているかどうかを視覚化し、数値化している。その部分の検査をもっとわれわれが大事に捉えてきちんとした虚血評価をし、インターベンションをやっていくべきですよね。上野先生が言われたように、「まるめ」の時代がたぶん来るんだと思いますが、単にインターベンションの「まるめ」だけではなく、冠動脈疾患・虚血性心疾患の診断と治療をセットで「まるめ」と考えたときに、もしかしたら虚血の診断にもっとウエイトを置いていく必要があるのかなと。そのようなことを今日先生方のお話を聞いて思いました。ですから、核医学を専門にやっている先生方と我々インターベンションのドクターは、虚血というものを掘り下げる上においてもっと密接に連携し、また色々と教えていただければということを感じた次第です。
中村 今日のお話を伺いますと、まず虚血に関する関心が今高まっています。その背景としては、冒頭でお話ししましたように、虚血ガイドPCIの成績がいいと示されたこともあります。一方で、保険の面において虚血の重要性が極めて重要であると提示されたことが、現場においては大きなインパクトがあったということだろうと思います。そういった中で、今日のテーマであります『安定冠動脈疾患に今こそ心筋シンチを!』といったことを考えたときに、この心筋シンチというモダリティが虚血の単なる評価のみだけではなく、虚血の大きさを評価できるということ、治療の前後で評価することでその予後を見据えることができるということ、また虚血の評価の方法が、半導体SPECTやPETなど、色々な面においてさらに進化を遂げているということも分かりました。我々は現在、虚血の評価で心筋シンチを用いるという観点で見てきたわけですが、患者さんの予後を改善するといった見地において、心筋シンチを用いていくということを再認識させられた意義のあるディスカッションだったと思います。本日は、お忙しい中貴重なお話をありがとうございました。
一同 ありがとうございました。