ダットスキャン静注 症例集2
  • ● 紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
    「警告・禁忌を含む使用上の注意」等については添付文書を参照ください。
  • ● DaTViewおよび3D-SSPによる画像解析は、「核医学画像解析ソフトウェア medi+FALCON」†を使用することで実施可能です。(† 承認番号: 301ADBZX00045000)
  • ● DaTSCANによるSPECT画像の定量的指標であるSBR(Specific Binding Ratio)は使用機種、コリメータ、画像再構成法等によって異なりますので、その解釈には十分ご注意ください。

GBA遺伝子変異ヘテロキャリア・パーキンソン病

国立病院機構宇多野病院
脳神経内科 大江田 知子先生
上原 尚子先生*
放射線科 上田 道夫先生**

現所属 * 関西電力病院 脳神経内科
** 国立大阪医療センター 医療技術部 放射線科

50歳台後半 女性
主 訴
人影が見える、薬効が続かない、身体と舌がくねる
家族歴
類病者なし
現病歴
X-9年頃  動作緩慢と頚部痛を自覚し始めた
X-8年4月  近医でパーキンソン病(PD)と診断され投薬開始。動作緩慢は軽快した。
X-5年頃  ウエアリングオフ症状が出現。オフ時には動作緩慢、歩行障害、首下がり姿勢、強い頚部痛(dystonic pain)が出現したが、レボドパの内服で改善。そのため、自己判断でレボドパを頻回に内服するようになった。
X-2年12月頃  夕方になるといないはずの人影が見え、落ちているごみが動いて見えるようになった。
X-1年1月  オン時に、舌や体幹にくねるようなジスキネジアが出現。軽度の幻視は継続し、物の置き忘れが増えた。
X-1年4月  投薬コントロールを希望し、当院紹介受診した。頭部MRIでは明らかな異常はなかった。
X年7月  DaTSCANを施行した。
治療・経過
受診時レボドパ800mg/日、オン時UPDRS パートⅢ47点、ホーン・ヤール 3度、オフ時UPDRS パートⅢ60点、ホーン・ヤール 5度であった。
MMSE 24/30点、FAB 11/18点と認知機能の低下を認め、ひとりでの服薬管理は困難な様子がみられた。
レボドパの投薬タイミングを調整し、オン時UPDRSパート Ⅲ21点、ホーン・ヤール 2度、オフ時UPDRSパートⅢ30点、ホーン・ヤール 3度に改善した。
軽度の幻視は続いており、同意を得てglucocerebrosidase(GBA)遺伝子を調べたところ、ヘテロ変異キャリアと判明した。
X-1年10月 案山子が人に見える、天井や床にたくさんの虫が動いているように見えるとの訴えが出現したため、クエチアピン25mgを眠前に追加したところ、幻視は軽快した。
心臓交感神経シンチグラフィ(X-1年4月)

Early  H/M比 1.46(閾値 1.92)3)
Delayed H/M比 1.17(閾値 1.68)3)
Washout Rate  47.7%
早期および後期ともに心筋への高度の取り込み低下がみられた。

3) H.Sawada, et al. Diagnostic accuracy of cardiac metaiodobenz ylguanidine scintigraphy in Parkinson disease. Eur J Neurol.16(2):174-182, 2009
IMP-脳血流SPECT(X-1年4月)
Original画像
Original 画像
3D-SSP(Decrease)
3D-SSP(Decrease)画像

 

両側頭頂葉、後頭葉、前頭葉、左優位広範囲に血流低下がみられた。

DaTSCAN(X年7月)
Original画像
Original 画像1
 
Original 画像2
DaTView結果画像
DaTView 結果画像

SBRは使用機種、コリメータ、画像再構成法等によって変動します。

 

線条体の集積は両側ともに著明に低下していた。

まとめ

本症例は発症年齢が46歳と早く、また、経過7年で出現した幻視が継続したこと、比較的早期に認知機能障害がみられたことが特徴である。
そのため、ドパミンアゴニストの使用が制限され、結果的にレボドパの頻回投薬が必要となった。GBAヘテロ変異は、現在判明している最大のPDリスク遺伝子であり、日本人PD患者の約9%に見いだされる4)5)
GBA変異キャリアの経過は一様でなく、通常のPD患者の中から明確に区別することは難しいが、やや発症年齢が早いこと、しばしばPD家族歴がみられることの他に、認知症や精神症状が早く進行する傾向があり、レビー小体型認知症様の経過をたどることもある。本症例にみられたDaTSCANによる線条体集積の低下は著しく、これもGBA変異キャリアの特徴かもしれない。

4) T.Oeda, et al. Impact of glucocerebrosidase mutations on motor and nonmotor complications in Parkinson’s disease. Neurobiology of Aging 36:3306-3313, 2015
5) J.Mitsui, et al. Mutations for Gaucher Disease Confer High Susc eptibility to Parkinson Disease. Arch Neurol. 66 (5):571-576, 2009