冠血行再建による予後改善に影響する心筋虚血以外のファクターとは
- ● 予後改善を目指した血行再建を行う場合、予後に起因するファクターは心筋虚血だけではない。そこで、この予後に起因するファクターとして他にどういったことを考慮して診療を行っていくべきか?
香坂 第3回ディスカッションでは、安定冠動脈疾患に対する治療戦略を考えていく上で考慮すべきリスクファクターについて議論を進めたいと思います。安定冠動脈疾患の予後に起因するファクターとして、先生方は心筋虚血以外にどのような点に留意されていますか。
中田 私は心臓の局所の異常だけでなく、全身的な異常、あるいは心機能異常も加味して臨床的に評価することが大変重要と考えています。図1はJ-ACCESS の結果ですが、「慢性腎機能障害(CRD)」、「負荷心電図同期SPECTにより測定された収縮末期容積指数(ESVI)」、「合計ストレススコア(SSS)」が、新たに発症する難治性うっ血性心不全の有意な予測因子として多変量解析で示されています。さらに、これらの因子は相加的に重なれば重なるほどイベントリスクの予測率が高まるということも明らかとなっています。
冠動脈疾患のリスク評価では、解析ソフトウェアであるHeart Risk View(HRV)を用いることも有用です。このソフトウェアには、J-ACCESSからの4,031例のデータベースを多変量解析して導き出した臨床因子に関するデータが搭載されています。糖尿病やCKDなどの全身性のクリニカルリスクも加味されていますので、より精度の高いリスク層別化が期待できます(図2)。また、 HRVは画像の読影に長けていない医師にとっても理解しやすいソフトウェアであるため、あらゆる場面で標準的な診療を実現するためのツールとして有用となるでしょう。また、臨床リスクを客観的に把握できるため、患者に責任血管に対する治療説明を行うような際に説得力を高められる期待もあります。
冠動脈疾患の治療においても、がん治療の場合と同様にリスクに基づいた治療戦略が重要です。すなわち、患者のリスクに沿った適正な治療をすべきであり、ハイリスクな症例ほど侵襲的な戦略により得られるメリットが非常に大きいと思います。逆に、ローリスクな症例ほど、侵襲的な戦略をとることで、デメリットのほうがメリットよりもはるかに大きくなってしまうと思われます。我々臨床医は、このような点に留意しつつ、リスク層別化に沿った上で患者の全身像を意識しながら治療戦略を立てていくことが必要と考えます。
永井 中田先生がお示しのとおり、HRVは実際のデータを基にして有用性が証明されていますので、今後非常に価値のあるツールになると思います。核医学に慣れていない医師にとってもこのようなソフトウェアの存在は大きいと思います。ISCHEMIA試験では、EF≥35%の左室機能障害のある心不全患者(HF/LVD)の予後についてサブグループ解析が行われています。この研究では、HF/LVDの既往歴のある症例のうち、侵襲的治療群では保存的治療群に比べ主要エンドポイント(心血管死、非致死的心筋梗塞、不安定狭心症、HF、蘇生した心停止による入院)が有意に低いことが報告されています(図3)。このことから、冠動脈疾患に対するインターベンションの適応を判断するに当たっては、心不全の有無やEFの状態などを十分に評価しておくことも重要と考えられます。では、「EFが35%未満の患者に対してはどうなのか?」ですが、残念ながらこれについては今のところ明確な結論が出されていません。我々も実際にこのような患者を治療することが多いと思いますが、ひとまずは改善に寄与しそうな病変に対しインターベンションを施行してみるという判断がなされるケースが多いと思われます。心不全と左室機能障害に対するインターベンションの効果については、今後のホットな話題または残された課題としてさらなる検証が必要であると思います。