まとめ これまでの議論を振り返ってみて (第1~3回ディスカッション)
- ● 心筋シンチによる10%虚血心筋量の評価はもう不要なのか?
- ● 安定冠動脈疾患に対する予後改善効果を目的とした血行再建は有用ではないのか?
冠動脈疾患を疑う症例に対する虚血評価は、リスク評価を行う上で今後も変わらず重要な指標である。虚血定量の結果と併せ、患者の全体像を総合的に評価して血行再建の適応を考えていくことが大切。
中等度または重度の虚血症例に対する血行再建の有用性については、 10年間のISCHEMIA-EXTEND試験の結果が出るまでは評価は難しい。ISCHEMIA試験では侵襲的治療戦略群の初期でイベント発生率が高い傾向にあった。したがって、血行再建を行うことのデメリットやリスクを考慮しながら治療方針を検討していくことが重要。
- ● 非侵襲的な負荷イメージングによる虚血評価で中等度以上の虚血が証明されなければCAGなど侵襲的評価を積極的に実施する必要はないのか?
- ● 症状の有無だけでCAGやiFR/FFR等の侵襲的評価を行うことは妥当なのか?
- ● 冠動脈CTAでプラーク性状を評価して内科的治療を強化しながらフォローするなど、心筋虚血を評価せずに診療していくことは妥当なのか?
軽度虚血症例に対しては、基本的には侵襲的評価をすぐに行う必要性は低いと考えられる。ただし、その後ハイリスク化する可能性には留意が必要。
CTAの結果、LMTに病変が認められるような症例に対しては、侵襲的評価の施行は妥当と考えられるが、狭窄の重症度だけでなく、機能的虚血についても十分な評価を行った上でインターベンションの必要性を検討していくことが大切。
iFRおよびFFRによる侵襲的評価は、心筋シンチ等の非侵襲的な負荷イメージングではっきりしない場合の最後のディシジョンメーキングの一押しであること、冠動脈の枝によって陽性率が異なること、末梢の心筋バイアビリティや微小循環障害を反映しないことについて注意が必要である。
- ● 予後改善を目指し血行再建を行う場合、予後に起因するファクターとして心筋虚血以外の何に考慮しながら診療を行うべきか?
心臓の局所の異常だけでなく、心機能異常や、糖尿病・CKDなどの全身性のクリニカルリスクも加味した臨床的評価を行うことが重要。HRVのような解析ソフトウェアを用いることで、リスク層別化を簡便に行えるようになった。
香坂 これまでのディスカッションを振り返り、先生方の今後の展望はいかがでしょうか?
永井 ISCHEMIA試験の結果が発表され、「重症虚血症例に対してのインターベンションは全く意味がない」というような議論で終わりにならないところに、この分野の面白さがあるように感じます。ISCHEMIA試験は、虚血範囲だけでなく、さまざまな臨床指標も十分に評価した上でリスク層別化を行うことの重要性について、あらためて考えるきっかけを示してくれたと思います。
中田 ISCHEMIA試験のような前向きのメガトライアルが発表されるたびに考えさせられることがあり、まだまだ勉強しなければならないと感じています。我が国においても日本独自のデータを持つ必要性があると思い、J-CONCIOUS Studyという前向き研究に取り組んでいます。この研究では、安定型冠動脈疾患の患者に対し、モダリティの種類に制限を設けずに、機能虚血を評価した上でインターベンションの必要性を判断し、予後への影響や治療の費用対効果について検討することを目的としています。東京大学 医療経済政策学 田倉智之教授が事務局になっていただいていますが、全国の先生方にもご協力をいただきながらJ-ACCESSのように世界に発信するようなエビデンスを日本から作っていきたいと思っております。
香坂 中田先生、永井先生、このたびは長時間にわたりご議論いただき、誠にありがとうございました。おかげさまで、非常に重要な示唆を頂きながら議論を進めることができました。あらためてお2人の先生方に感謝させていただきたいと思います。