心臓画像解析ポケットマニュアル

1.心臓CT検査

監修

林 宏光 先生
日本医科大学 放射線医学

心臓CTの適応

MDCT(multidetector-row CT)の登場により、CTの空間分解能・時間分解能は著しく向上し、画像再構成法の進歩とあいまって、血管疾患領域のみならず、心臓・冠動脈領域への適応も一般的となった。
日本循環器学会が行った循環器疾患診療実態調査によると、冠動脈CTを行っている施設は年々増加し、循環器疾患の日常診療において、欠くことのできない検査法となりつつある。
そのため、本邦及び欧米における関連学会においてもガイドラインが整備されつつある現時点でのものを下記のようにまとめてみた。

心血管CTが有用とされている疾患
大血管疾患 大動脈瘤、急性および慢性大動脈解離、大動脈狭窄 等
その他の血管疾患 閉塞性動脈硬化症、肺血栓塞栓症、深部静脈血栓症 等
心臓領域 冠動脈の評価(起始・走行の異常、狭窄、プラーク性状、
バイパスグラフト開存、ステント内再狭窄 等)、先天性心疾患 等

心臓画像診断ポケットマニュアル資料がダウンロード可能です。
本資料のダウンロードご希望の方はこちらから>>

        

 

画像表示方法
通常用いられる画像表示には以下のものがある。

 


 
水平断像
axial image
ボリューム
レンダリング法
volume rendering
(VR)
多断面変換表示法
multi planar reconstruction
(MPR)
最大値投影法
maximum intensity projection(MIP)
アンギオグラフィックビュー
angiographic view
曲面変換表示法
curved planar reconstruction
(CPR)

 
CTの基本画像で、頭尾方向に対して垂直な2次元断層像。
通常、横断像の間隔は1mm未満にする。
再構成された横断面を3次元表示したもの。
狭窄度診断には向かないが、血管走行や屈曲、分枝方向の把握に適する。
CTの3次元データを2次元的な平面像に変換した画像。
任意の方向の断層像が得られる。
ある厚みを有するスライスに対し、投影方向における最大CT値のみを表示する方法。
このMIP像から心内腔や大血管などを除去して再構成した表示法がアンギオグラフィックビューであり、血管造影に類似した画像が得られる。
任意に設定した曲線に沿った面を展開する画像。狭窄度の他、血管リモデリングやプラークの存在・性状診断も可能。
画像例

水平断像 画像例

ボリュームレンダリング法 画像例

多断面変換表示法 画像例

最大値投影法 画像例

曲面変換表示法 画像例

 

<放射線量を少なくするための方法>

 

放射線には人体に悪影響を及ぼす危険性がある。
医療放射線源による被ばくは過去10年間で著しく増えており、増加の大部分はCTによるものである。
電離放射線による被ばくに関する主な問題は、発癌の誘因となる可能性である。
安全な放射線量はなく、特に小児や若年成人のリスクは高い。
乳房組織は放射線に対する感度が高いため、心臓CTの放射線リスクは女性の方が高い。
放射線量を少なくするためには、以下の方法がある。

 

1.管電圧の変更
通常100~120kVの管電圧を80~100kVに下げることで、放射線量を30%~50%低減できる。
小児や小柄な患者の場合に活用できる。

2.管電流の変更
患者の体格や画面ノイズに応じて管電流を変更する。

3.心電図同期管電流変調法(ECG-based tube current modulation)
この方法により最大50%まで線量低減することができる。

4.心拍ゲーティング
事前に指定した心位相のみでX線照射を行うprospective ECG triggering法により、最大90%の被ばく低減効果がある。

5.被ばくモニタリング
標準的な線量パラメータのCTDIは、総照射線量の代替にはならない。
実際の照射線量の近似推定値はDLPであり、胸部の場合、ファントム検査に基づけば、0.014倍をDLPに加重することで実効線量の推定値となる。

6.心拍数に関する考慮事項
心拍数が80/分を超え、特にR-R間隔が不規則な症例は、心臓CTの相対的禁忌である。しかし最新の装置では撮像可能な場合もあり、事前に放射線科とよく相談することが必要である。

冠動脈CTの注意点

下記の場合、冠動脈CTの施行の際には注意を要する。

 

  • 不整脈(心房細動/期外収縮)
    →但し、心房細動の場合、装置によっては実施可能
  • 高心拍数
    →装置にもよるが、概ね>80bpm程度
  • 呼吸停止不良例
  • 石灰化病変
    →特に透析患者では注意を要する
  • 腎機能障害患者
  • 造影剤アレルギー
  • 気管支喘息
造影剤の使用に関して

造影剤の副作用および禁忌につき、充分に理解し、その使用は最小限度となるよう努めるべきである。

 

<造影剤の副作用>(軽症:3%、重症:0.04%程度)

軽症な副作用

皮膚症状:発疹、掻痒感、発赤、蕁麻疹 等
消化器症状:嘔気、悪心、嘔吐 等

中枢・末梢神経症状:頭痛 等
重篤な副作用 痙攣、意識消失、咽頭浮腫、肺水腫、不整脈、肺・循環虚脱

 

重篤な副作用の発現頻度と関連するリスク因子として、造影剤副作用歴、気管支喘息、重篤な心疾患等がある。
造影剤投与前には問診を行いリスクを評価することが必要である。

 

 

補足

メトホルミンなどのビグアナイド系経口糖尿病薬服用者では、重篤な副障害である乳酸アシドーシスを回避するため、緊急検査時を除き、造影剤使用の前後48時間休薬することが望まれる。


心臓画像診断ポケットマニュアル資料がダウンロード可能です。
本資料のダウンロードご希望の方はこちらから>>