認知症の鑑別診断(詳細)
アルツハイマー型認知症(AD)と他の認知症を鑑別するためのチェック項目と核医学検査の活用例
ADと他の認知症を鑑別する場合
レビー小体型認知症(DLB)の可能性 1)5)
- 記憶障害より注意障害(注意の持続や維持が困難)、遂行機能障害(作業計画が立てられなかったり複雑な 作業を計画通りに行えない)、視空間認知障害(道に迷ったり、空間的な位置関係や見たものや使い方が分 からない)が目立つ
- 認知症の早期でも描画検査(模写による時計描画や立方体模写)の成績が不良である
- 認知機能の変動(注意などの認知機能が数時間、数日、数カ月の単位で変動)がみられる
- 幻視やレム期睡眠行動異常症、早期にうつ症状や誤認症状(人物誤認)などの精神症状がみられる
- 認知機能低下の前から、起立性低血圧による失神や意識消失、転倒、排尿障害、便秘、発汗異常等がみられる
- 手足のふるえ、動作緩慢、筋強剛などのパーキンソニズムがみられる
- 認知機能の低下に比べて海馬の萎縮が軽度である
行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD)の可能性 2)3)5)
- 記憶障害や視空間認知障害より遂行機能障害が目立つ
- 取り繕いがみられない(病識の欠如)
- 早期から自発性の低下や無関心、同情や共感能力の低下などがみられる
- 早期から反社会的行動(割り込み、信号無視、万引きなど)や診察中の立ち去り行動がみられる
- 早期からの介護者や医師の動作をまねる模倣行動や、繰り返し行動(同じ物ばかり繰り返し食べたり、毎日同じコース・同じ時間の散歩を繰り返す)などがみられる
- 食行動の異常(急激な体重増加を伴う大食や嗜好の変化)がみられる
- 発症(受診)年齢が若い
- 海馬の萎縮だけでなく、前頭葉や側頭葉の強い萎縮も認める
皮質下血管性認知症(SVD)の可能性 4)
- 記憶障害より遂行機能障害が目立つ
- 自発性の低下や無関心などのアパシーがみられる
- 抑うつ、人格変化、感情失禁(突然笑いだしたり、泣き出したりなど感情のコントロールができない)などがみられる
- 質問の理解やその反応に時間がかかる思考の緩慢化がみられる
- 早期から小刻み歩行や幅広歩行などの歩行障害がみられる
- 言葉をうまく発声できない構音障害、うまく呑み込めない嚥下障害、尿失禁などの神経症状がみられる
- 白質病変や皮質下の多発ラクナ梗塞を認める
軽度認知障害(MCI)の経過観察の必要性を判断する場合
- 健忘型MC(IaMCI)で、記憶障害のみか、記憶障害に加えて他の認知領域の障害を認める
- 本人に自覚があり、認知症に対して不安を感じている
- ごく軽度の海馬の脳萎縮を認める
問診で十分な情報が得られない場合
- 日常生活の状態について詳細な情報を把握している家族(同居者)がいない
- 十分な病歴の確認ができない
1) Neurology 2017; 89: 1-13
2) Brain 2011: 134: 2456-2477
3) Neurology 1998; 51: 1546-1554
4) J Neural Transm Suppl 2000; 59: 23-30
5) 日本神経学会 認知症疾患診療ガイドライン2017 P239, p267, 医学書院